悪魔の復活はいつだ

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 真智の母は可哀想なヒトだ。そんな親族の声を聞いて育った。  心の弱い人だった。他人にすぐに騙される人だった。利用される人だった。怪しい宗教にハマる人だった。高価なものを売りつけられる人だった。  父が母を見捨てず離婚しなかったのは真智がいたからだ。片親では世間体もあるし、仕事人間である父に引き取られては不便も多いだろうと。母は家事はきちんとこなすので、もはや家政婦くらいにしか見ていなかったようだ。  父親の稼ぎは良く、夏休みなどは必ず数日間旅行をした。あちこち旅館に泊まっていたが、こぢんまりとした別荘を買ってもいいかなと父が言ったのは真智が八歳の時だ。近所に住む人に管理人をしてもらい、シーズンオフは掃除や手入れをしてもらう。夏休みなどは滞在して過ごそう、ということになったのだ。  小高い丘の上にある、ポツンと建った家。一面に海を見渡せて自然も多い、条件はこれ以上にないくらい良い物件だった。父はすぐに気に入り、下見をしてみると壊れそうな箇所もなく、もう買ってしまおうと上機嫌だ。話はとんとん拍子に進み、その年の夏さっそく家族で別荘に来た。  その頃からだ、母の異様さに拍車がかかったのは。  初日は何もなかった。しかし翌日からこんなことを言い始めたのだ。 「何かいる」  その言葉に父はうんざりした様子だった。せっかくの休みが台無しになると、厳しく注意した。一家の大黒柱であり、母より九歳年上であることもあり母は父に逆らえなかった。父のいない場所で母に聞かれた。 「まーちゃんは、何かおかしなことなかった?」 「どんなこと?」 「変な音聞いてない? かりかり、とんとん、って。何かを引っかいたり、叩いたりする音」 「ううん、聞いてない。まち、寝ちゃってたから」  真智が首を振ると、そっか、と言ってその場は終わった。しかし母は警戒していたようだった。口に出すと父の機嫌が悪くなるのでその後一切口にしなかったが、真智にだけはこっそり聞いていた。 「変な音、聞こえなかった? 夕べの十時くらい」 「わかんない、まち、昨日は眠くて九時に寝ちゃってる」 「うめき声みたいなのは」 「聞いてないよ」 「そう……」  その年の別荘滞在が終わり家に帰ったが、父が一週間の海外出張になった時母は真智を連れてあの別荘に来た。どうしても気になったのだ。近所に住む、管理人として雇われた男を訪ねる。 「教えてほしいんです。気になっていたんですが、あの建物は何なんです。何故あんなところに一軒だけ?」  男は、目を泳がせる。何か隠している事は明白だった。
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