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「……天才には、凡人の気持ちは分からないってことですか?」
自分の言葉にハッとして思わず目を逸らす。
確かに早見さんには才能があると思う。でも、いちばん努力しているのも早見さんだ。誰よりも早く朝練に来て、帰るのもいちばん遅い。
それを天才の一言で片付けるのは何よりも失礼で、早見さんを突き放すことだと知っているのに。
そんな僕の頭の中とは裏腹に、あっけらかんと話し始める。
「まあそうとも言うな。一生やりたいって思えるものに早めに出会えて、それがたまたま向いてた。楽しいことを追いかけてたらいつの間にかここにいた。俺は運がいい」
白い歯を見せながら笑う姿に、今度は明確に憤りを感じる。
「……どうして怒らないんですか? 僕は今、とても失礼なことを言いました。どうしてそんなにヘラヘラ笑ってられるんですか?」
「別に? その通りだからだよ。俺やナルは楽しいことだけ考えてられる。でもお前は違う」
感情が読み取れないほどフラットな表情で言い放つ。その視線は僕を真っ直ぐに射貫き、全てを見透かされるようだ。
感情に任せて好き放題言い散らかした自分がちっぽけに思える。
そんな僕を落ち着かせるように穏やかな口調で続けた。
「お前は辛いことや苦しいことを消化して克服する才能がある。どんよりした今のチームにはお前みたいなやつが必要だ。ウチはまだまだチームとして若いけど、ちゃんと強い。来年はさ、何ということでしょう~ってナレーションいれたくなるくらいになっとけよ」
いつの間にか風は止み、空は淡い紫色になっていた。
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