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僕は焦って大切なものを見失っていたのかもしれない。
僕たちには型がない。だからこそ何度もぶつかり合った。色んなものが混じり合った。良くも悪くもめちゃくちゃだった。
僕はひとりじゃない。
「当たり前です。見比べてびっくりの大変身しときますから。ありがとうございます。頭の中がすっきりしました。……すみませんでした。感情的になってしまって」
「おう、許す。そうやって自分が悪いことしたらちゃんと謝れるのもお前のいいとこだ。むしろどんどん喧嘩しろ! 言い過ぎたら謝ればいい。言わないよりはよっぽどマシだ」
「やっぱりちゃんと傷ついてるじゃないですか。笑ってるから分かりにくいですよ」
「嫌なことほど笑い飛ばしちまった方がいいだろ? うじうじしててもしょうがない。まあとにかく、優秀な新主将様の繋ぎに期待だな。守るとこと攻めるとこ、はっきりしろよ」
クサくて漠然とした言葉だけど意味は分かる。どこまでできるかは分からないけど、やってみよう。
「分かってますよ、それくらい。……そんなことより優秀な主将様になにか貢ぎ物はないんですか? 僕、からあげ食べたいです」
突然変わった風向きに早見さんは眉をしかめる。
「お前、ちゃっかりしてんな」
「はい。こういうときの早見さん、絶対に断らないの知ってるんで」
「くっそー! 生意気な後輩持つと大変だなあ、おい! ……コンビニ寄ってくぞ」
早見さんが自分の中でいちばんかっこいいと思っているキメ顔で立ち上がる。
「さすが早見さん。でもその顔はやめた方がいいですよ」
僕たちはくだらない軽口をたたき合いながら教室を後にした。
浅い夜闇の中、揺れるカーテンは白く輝いて見えた。
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