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理性を凌駕する恐怖。いや、恐怖は理性など簡単に超え、人を獣にするのだろう。
もう、二日も水分を補給出来ていない。
キリコは冷えた床に脚を抱え込んでうずくまっていた。ほとんど何も見えないリネン室、棚を隔てた向こう側には一つ下の後輩が居る。名は高梨みつば。
「キリコさん」
掠れた声は高梨も暫らく何も飲めていないからだ。
「居るよ。まだ大丈夫」
「はい……」
先程から廊下を誰かが歩き回っている。それから不気味な低い唸り声。
「キリコさん、私達死ぬんですかね」
キリコの伏せられた瞼がゆっくり上がる。数回瞬きをしてから、溜息をそっと吐き出した。
「おそらくは、ね。高梨さん、心拍数どう?」
「乱れてます。とても……。キリコさんは?」
「私はまだそこまでは」
昨日までの高梨ならここですいませんと涙ながらに謝るところだが、今は何も言わなかった。謝るのは無意味だ。
二人が暗闇から出られなくなったのも、それについて謝ったり謝られたりすることも、何もかもどうでもよくなっていた。
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