うまれかわりたい

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うまれかわりたい

 僕は夜寝る前に、お気に入りのフィギュアを可愛がることが日課だ。 「今日も可愛いなぁ、憧れちゃう、こういう子に」  魔法少女リコの頭を撫でた。  その瞬間、ちょっとした違和感を抱いた。  でもその正体が何なのか、全く分からなかった。  まあそんなことは気にせず、もう一体のお気に入りのフィギュアを可愛がる。 「今日もカッコイイなぁ、素敵だなぁ」  龍ライダー・ヒロの肩を触った。  筋肉質なところまで再現されたヒロ、僕は大好きだ。  ただ、肩を触った時、何故か、魔法少女リコの時に似た感覚がした。  何だか胸が高鳴るような不思議な感覚。  今日は疲れているのかな、と思い、僕はベッドへ横になった。 ・ ・ ・  最初は朝かなと思って目を覚ましたが、まだ部屋の中は真っ暗で、夜に目覚めてしまったらしい。  すぐに二度寝してしまえばいいかと思い、また目を瞑ったその時、何かの声がした。 「悠佑くん、起きて、起きて」 「ユースケ! ちょっと起きて俺たちと話そうぜ!」  誰だろうと思いつつ、眠い目をこすりながら、部屋の明かりをリモコンで付け、声がするほうを見ると、そこには魔法少女リコと龍ライダー・ヒロがいた。  公式設定と同じサイズの、人間としてのリコとヒロがそこにはいた。  僕は心臓が止めるかと思った。  えっ? どういうこと? そういう恰好をした泥棒?  いやでもピンポイントすぎる。  どういうことなんだろう。  その説明は二人がしてくれた。 「悠佑くん、聞いて。悠佑くんが私のこと毎日可愛がってくれるから、神様が私を好きな恰好の人間にしてくれることになったの。だから明日から私は人間の女性として悠佑くんの彼女だよっ」 「馬鹿野郎! そうじゃねぇだろ! どっちか一体を好きな恰好の人間にしてくれるって話だろ! なぁ! ユースケ! 友情を選んでくれるよな!」 「何言ってんのっ? 彼女というものは彼女であり、生涯の友人でもあるんだよっ! どっちも兼ねた私を選ぶに決まってるじゃないのっ?」 「いや男同士でしか話せないことがあるんだよ! 一緒にどこへでも遊びに行けるぜ! なぁ! 俺を選んでくれよ!」 「今はこうして神様から、両方とも人間の状態にしてもらっているけども、明日の朝にはどっちかはフィギュアに戻っちゃうのっ! お願い! 私を選んで!」 「いや当然俺を選ぶよな! ユースケ!」  急なことだったけども、意味を理解した。  でも、一つ、気になることがある。 「ホントにそんな神様存在するの?」  そう僕が問うと、どこからともなく、脳内へ直接誰かが話し掛けてきた。 「本当じゃよ」  ……。  ……。  ……いや短っ。  脳内へ直接話し掛ける感じがまさに”ソレ”だけども短っ。 「ホントにそうなんですかっ?」  そう僕が声に出すと、また脳内が一瞬ピキンと光って声が聞こえてきた。 「マジで」  もっと短くなった……でも、リコとヒロが微笑みながら頷いている。  いやでもそうか。 「リコとヒロが嘘つくはずないもんね、うん、信じるよ」  そう言うと、リコとヒロは喜んで、二人でハイタッチしかけて、やめた。 「オマエは俺の敵だ! さわるんじゃねぇ!」 「いやアンタが私にさわろうとしてきたんでしょ! この変態!」 「俺のどこが変態なんだよ!」 「何で悪と戦うのに、そんな肌を露出しているの? 防御力あげたら?」 「いや筋肉を露出していたほうが強そうでカッコイイだろ! それを言うんだったら、そのフリフリのスカートのほうが戦うには邪魔だろ!」 「こういう可愛いところが無いと、気分がアガんないのっ!」 「気分なんてどうでもいいだろ!」 「アンタのヤツも気分じゃないのっ? 自分のこと理解できていないなんて、アンタ馬鹿じゃないのっ?」  いやすごい悪口の応酬だ。  確かにリコは生意気な魔法少女で、ヒロは口の悪いヒーローだけども。  でも。 「二人とも、譲り合ったりはしないんだね……」  そう、正義の味方である二人なら譲り合ってもおかしくないと思った。  でも今、目の前にいる二人は完全に取り合っていた。  ……そして僕は顔にも出ていた。  不信感が完全に、顔に出てしまっていたんだ。  だから二人は俯いて黙った。  数秒の間。  それを切り裂いたのはリコだった。 「だって、だって……私、悠佑くんの彼女になりたいんだもん……あんなに私のこと可愛がってくれる悠佑くんに恩返ししたいんだもん……ねぇ、私のこと選んでよ……絶対後悔させないから……」  そう言って僕の手を握ってきたリコ。  リコの手は震えていた。  すると、今度はヒロが僕の肩を優しく叩いてきた。  そして、 「俺だって、ずっと俺のことを褒めてくれたユースケに恩返しがしたいんだ、俺のほうはさ、テレビのシリーズも終わってさ、もう次の芽は無いのに、ずっとこの場所に残してくれて……ゴメン、ユースケ、オマエの望む俺じゃなかったわ、ちょっとおかしくなってたわ、ここは……魔法少女リコ、オマエに譲るわっ」  そう言って切なげに笑ったヒロを、僕は、気付いたら、抱き締めていた。 「そんな顔しないでよ、ズルいよ、ズルいよ……ヒロ……」 「いやいやありがとうな、でも、抱きつく相手は俺じゃないぜ、ユースケ」  そう言って僕から離れたヒロは、リコの背中を押して、リコを前に出した。 「アンタ……いいの? あんなにアンタだって人間になりたがっていたじゃない? 本当にいいの?」 「あぁ、男に二言はねぇぜ、これ以上カッコ悪いところ、ユースケには見られたくないからな」 「じゃ、じゃあ、悠佑くん……これから、お願いします……」  とリコが前に出てきたので。  僕は。  かわして。  ヒロに抱きついた。 「「えっ?」」  リコとヒロがユニゾンした。  でも。  そうだと思う。  でも。  そうじゃないとダメなんだ。  だって。  僕は。 「僕は、男性が好きだから、ヒロのほうが好きなんだ……」 「「えぇぇぇええええええええっ!」」  二人とも声を揃えて驚き、そして静寂へ。  ……。  ……。  ……先にこの場を切り裂いたのは、さっきと同様リコのほうだった。 「ちょっと! ちょっと! 私のことずっと憧れるって言っていたじゃない! こういう子に憧れちゃうって言っていたじゃない!」 「それは……僕は……魔法少女リコのようになりたいという意味で、憧れちゃうと、言っていたんだ」 「そっ! そういう、い、意味だったの……」  その場に、へたりと座り込んだリコ。 「ねぇ、ヒロ、僕の恋人になってくれないかな」  すると、最初は困惑した表情を浮かべていたヒロだったが、意を決したのか、キリッとした真面目な表情になった。 「ダメだ、その気持ちは受け取れない」  やっぱりか。  フィギュアにも男性が好きとか、女性が好きとか、あるんだな。  僕はヒロから離れた。  じゃあ僕は、別に、どっちでも、いいなぁ。 「ユースケ、話を聞いてほしい」  いやもう、どうでも、いいかも、なぁ。 「俺はユースケのことが嫌いなわけじゃない」  いいよ、そんな言い訳。 「神様、俺たちはフィギュアのままでいいから、ユースケを魔法少女リコのような女の子にして下さい」  ……! 「そ! そうよ! それがいいわ! 神様! 好きな恰好の人間にしてくれるんでしょ! じゃあ悠佑くんを、悠佑くんがなりたい好きな恰好の人間にしてよ!」  いやでも。 「二人は、そもそも、人間になりたかったんじゃないの?」 「いや俺はユースケが幸せになればそれでいい」 「私だって、悠佑くんが幸せならそれでいいわっ」  すると、また脳内に声が。 「じゃっ、決定じゃな」  短っ。  相変わらず短っ。  神様。  でも、ホントに、ホントに……。 「ホントに、いいんですか……?」  神様も念を押す。 「じゃあ皆、それでいいんじゃな?」 「おう! ユースケ! 絶対俺みたいにカッコイイ男を捕まえろよな!」 「悠佑くん! 私みたいにずっと可愛くしていないと、承知しないんだからっ!」 「リコ、ヒロ、ありがとう……」  そして僕は、念願の、魔法少女リコのような女性になれた。  これからいろんな苦難があるかもしれないけど、きっと大丈夫だ。  何故なら、僕には心強い二人のヒーローが付いているから。 (了)
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