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「通訳なんかしないぞ」
「してくれなくていいよ、べったりくっついて離れないだけ」
「それはそれでいいな」
いって修二さんが私の体を優しくなでる、そんな仕草に幸せを覚えた時、監督の撮影開始の声が響いた。
修二さんも仕事人だ、すぐに腕を解放して、さらに腰を掴んで立ち上がらせてくれた。私は修二さんのコートを受け取ってその場から離れる。
そんな人目をはばからない修二さんの行動は、まもなく芸能記者にもキャッチされる。
一緒に住んでいることも当然バレる、四六時中行動を共にする私たちに関する遠慮ない報道に、事務所のコメントは「本人に任せている」だ、これは暗に交際を認めたことになる。
とはいえ、テレビでよく見る芸能記者とやたら遭遇するのは、一体どんな情報を待っているのか。
「付き人、辞めようかな」
移動の車の中、局を出てからずっとタクシーがつかず離れずついてくるのを睨んでからつぶやいた。
「なんで」
修二さんが怒った声でいう。
「だって、監視されてるみたいで嫌だし、修二さんにも事務所にも迷惑かけてるし」
私の言葉に、運転している池口さんは即答でそんなことないといってくれる。
「修二さんは慣れてるかもしれないけどさ」
子供の頃からといっていいくらいから芸能界にいるんだ、視線を集めるのも慣れてるというか、当たり前というか、なりたかったんだろうし気にならないだろうけど、私は違う、むしろずっと裏方でやってきてから無理。
「別に慣れちゃいないし、辞めてどうする?」
「またバイトかな」
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