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コンビニに戻ろうかな、2か月程度で戻るのも笑い者だろうけど、きっとあの店長なら受け入れてくれる。
「あのガキがいるところにか」
ガキ? ああ、中木くんか。
「そっか、まだいるよね」
大学生の間は場所を変えずに働き続けるかも。ああ、なんか既に懐かしいな、メンバーも変わらずならきっと働くのも楽だ。
「却下だな」
は?
「働くにしても、どうせ今も俺が養ってるようなもんだ、名実ともに俺の扶養になってから──ああ、そうしたら、このまま俺といればいいじゃん」
「え、だから」
追いかけまわされるのが嫌だといっているのに。
「嫁と一緒だとなれば、記者たちも嗅ぎまわることもないだろ」
あ、そっか──って、え?
「え、嫁……!?」
にこりと笑う修二さんと目が合って、確認するのが怖くなった。いたずらをする子供のような目だから、なーんてね、とでもいいそうな瞳から慌てて逃れる。
不意に二の腕を引っ張られた、修二さんに引き寄せられ、反対の手が顎にかかって上向きにされる。
「え、修二さ」
軽くキスをされた、いや、後ろのタクシーから、見えるから……!
「断るなら今のうちだけど、どうする?」
間近で微笑む修二さんは、私の答えなど知っているという顔をしている。そうだ、断る理由なんてない──。
「……よろしく、お願いします」
答えを最後まで聞かず修二さんは再度キスをする、池口さんのため息が聞こえてきて恥ずかしかったけれど、離れることはできなかった。何度も受けたキスだけど、このキスはとびきり気持ちよく感じた。
離れた修二さんはまだ物足りなそうに、額と額を突き合わせたまま私の頬を両手で包み込み愛おしそうに撫でてくれる、それだけで幸せだ。
「──今度の休みは千景の実家行って、幼馴染とケリつけるからな」
ケリ? そんなもの要らないよ、だって私が修二さんを選んだんだもん。
ちゃんと紹介するから。
結婚しろとうるさかった母も、びっくりするだろうなあ。よりによって連れていくのが松下修二だなんて。でも文句はいわせない。
出会ってしまった、運命の人なんだから。
終
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