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☆
「疲れてんね」
バイト仲間の中木くんが心配してくれる。大学3年生、夕方からのバイトだけ一緒になる子だ。中木くんはそのまま深夜の時間帯まで働くこともある。いいな、深夜はバイト代いいから。でも女子はダメだとオーナーに止められてしまっている。
「うーん。働きづめで、ちょっとね」
心労もある、離職から8か月、もうすぐ年末だというのに、ボーナスはないし、お金はないし、仕事は決まらないし。
「そんなに金が欲しいの? 誰かに貢いでんの?」
中木くんは笑顔でいう、んもう、と私はため息が出た。
「はあ、そんなことしてないし、むしろ貢いでほしいし」
「あはは、俺も貢いでほしい」
「もう……茶化してる場合じゃないのよ……生活費すらヤバいんだから」
つくづく代理店での収入はよかったんだな、ふたつのバイトを掛け持ちしてもそれには及ばないもん。
「貢いでくれる人はいないの?」
「いれば苦労してないよ」
「頼れる人も?」
「頼る?」
「家族とか、恋人とか」
「家族かあ」
遠い雪国に住む親兄弟を思い浮かべる、そうだ、本来なら頼っていいんだけど──。
「恋人なんて、2年もいないしなー」
仕事にかまけていたら、お前は俺より仕事なんだなっていって振られた。たまたま忙しかっただけなのに。
「えー、じゃあ俺が立候補して貢いでもいいけど、酒井さん、なにしてくれるー?」
「えー? 私ができることー?」
貢がれる人って何をしてもらってるんだろう? ホストなんかだとひたすら褒めてちぎっているような?
「あー……肩を揉む、とか?」
「それ、酒井さんがしてほしいことじゃん」
む、おばさん扱いしないでよっ。
「で、肩揉むくらいなら、乳揉ませろ」
「こらあ、セクハラで訴えますよぉ?」
「てへへっ、ご勘弁を!」
敬礼してかわいらしく舌まで出していう。
「つかさあ、貢ぐとか字面が辛いから、俺が養って上げますよ!」
「は?」
養うとは?
「あと1年とちょっと、待っててくださいよ、実際にはそこまで待たせずに迎えに行けるよ、就職決まったらいいっしょ」
1年ちょっと? ああ、大学卒業の頃か。え、卒業したら迎えにって、養うって……。
「やだ! 結婚するみたいじゃん!」
思わず突き飛ばすように中木くんの肩を叩いていた。
「みたい、じゃなくて、そのつもり」
にこ、と微笑みいう。いやいや、私と中木くんじゃ、何歳違いよー。
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