1.〈たいへん、たいへん〉

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☆ 翌日、バイトの合間に銀行へ行った。 残高を見て「あー」と声が漏れる、そうだよね、8万9千円の家賃が引き落としできませんでしたっていうんだもの。残高は7万円余りしかなかった。 幸い、貯蓄用に別に口座を作っている、そこにはまだ200万以上お金が入っている。こつこつ貯めてきた分と、年末のボーナスとわずかながらもらえた退職金だけれど、それには手を付けたくない。でもこのままではそれに手を出すこことに──ヤバいという焦燥感に襲われる。 とりあえず出費は抑えよう、一番の出費は家賃、もっと安い家に変えなくては。 ひまわり不動産へ赴き、家賃を払ってから早速相談する。 「実は正社員は辞めたんです」 クビになった、とはいいたくない。 「なので、今の家では家賃が厳しいので、もっとお安いところへ住みかえようと思います」 「そうでしたか」 矢神さんは微笑みながら答えてくれた。 「そうですよね、生活の根幹ですからね。えっと、今、探されます?」 「はい、1時間くらいなら時間があります」 次のバイトが始まるまでの時間だ。 「ご希望のエリアは?」 「今はバイトをしているので、やはりバイト先に近いほうが。今とあまり変わらないほうがいいです」 「そうですか……酒井さんがお住いの場所は、人気エリアなので、意外と高いんですよね……」 京急線戸部駅の近くのマンションだ。駅自体は普通しか停まらないけれど、少し時間はかかるが横浜駅までは徒歩圏である。話題のみなとみらいエリアにも近い、人気だというのも頷ける。 「沿線を変えて、相鉄線とか……」
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