1.〈たいへん、たいへん〉

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「ごめんなさい、電車代を使ってまでバイトに行くつもりは」 通勤手当はあるけれど、今が徒歩なのだからそれは嫌だ。慣れたバイト先を変えたくもないし。 「お安く、というといかほどですか」 「5万円くらいとかかな……」 具体的にはいくらくらいで借りられるんだろう? 今は手取りで20万いかない、家賃は概ね収入の3分の1といわれているけれど、6万7万は、きついな……。 「うーん……築年数が行っていて、木造のアパートなら、ですかねえ……」 「木造のアパート、ですか……」 生まれ故郷のイメージだと相当おんぼろだけれど、横浜なら綺麗なのかしら。 「うーん、でもやはりお勧めはしがたいですね。こういうところは年配の方が多くて、そこに若い女性がとなると、変な目で見られたりもしそうですし。そもそも防犯、防災も疎かですから」 「ああ……はい」 実家の近くのアパートを思い浮かべる、あれよ、叩けば開くタイプの鍵だったりしたわ。 「せめて6万……あ! そうだ、さっき……!」 いって矢神さんは立ち上がり、複合機にあった紙を取り上げる。 「えっと……これだ。酒井さん、ハウスシェアリングはいかがですか?」 「ハウスシェアリング?」 「シェアハウスというほうが一般的ですね。一軒の家を複数の方で借りる部屋です」 「ああ」 ドラマとかでも見るあれか。
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