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一年前、何者かになりたくて、演劇部に入った。「演じる」ということはある意味、「変身」だと思ったからだ。
普段は明るく振舞えない自分でも、舞台の上では別人になりきれる。そんな期待を抱いて僕は演劇部の部室のドアを叩いた。仲間や先輩たちはいい人ばかりだけど、僕の望みは叶えられてはいない。
「友人B」は僕そのものだった。
所詮、演劇一年未満の学生が中心となって作った作品だ。ゆかな以外の同期は「素」の自分に近いキャラクターを演じている。それが演じているのかは分からない。素のままを出せは、自然と良い演技ができる。その点では僕も「友人B」になりきれていただろう。僕は「友人B」にぴったりの配役だ。でも変われない。僕は僕のままだ。
「拝島くん、ちょっといいかな?」
6月。部活を終えた僕を笹山先輩が呼び出した。うちの部活で脚本を担当している、眼鏡をかけた短髪の先輩だ。頭がよく、後輩からの信頼も厚い。
「はい、なんでしょうか?」
「今度の公演なんだけどさ、拝島くんを主役にしたいと思っているんだ」
僕は笹山先輩の言葉に耳を疑った。同期で一番影の薄い僕が、主人公だなんて。
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