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「うん。なに?」
「主演を、変わってほしくて」
「えっ? なんで?」
「部活を続けるのが、難しくなったっていうか」
ゆかなは困ったような顔をした。役を任されるのが嫌ではなく、僕がいなくなるのが嫌みたいだった。
「そうなんだ……。それなら仕方ないね」
「うん。ごめん」
「拝島くんが謝ることじゃないよ。それに私も、この役にすごい興味があったから」
「さすが桂さん。今までやったことない、難しい役柄だもんね」
「ううん。そうじゃなくて、この役、私と似てるなって思ってて」
「え?」
ゆかなの言葉は僕に衝撃を与えた。何者でもなれる彼女が、こんな透明な主人公と似ているはずがない。
「演劇でいろんな役をやっていると、本当の私がどれだか分からなくなっちゃって、常に誰かを演じているような気持ちがしてね。だからこの主人公の感覚もすごく分かるの」
僕とは真逆ではるか遠くにいるように見えたゆかなの存在。でも同じような悩みをもっていた。何者にもなれるからこそ、自分を失ったゆかなと、何者にもなれず自分を失っている僕。
カメレオンとナナフシのような。変身が得意な二つの生き物のような。
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