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「パパーー!!さな、これ!!これがいい!」
フロアを歩いていると目の前の通路のずっと向こうから沙菜が叫んだ。ギョッとしてみれば、店の商品であるキックボードをヒューンと走らせている。
「げ」
「ひぃいい」
綾乃までそんな情けない声を出さないでほしい。
「危ないから降りなさい!ぶつかるから!」
「だいじょーぶっ」
「お店の中で乗ったら駄目でしょう!!」
楽しそうに髪をぴょんぴょんさせながらシューっと滑り込んできた沙菜は「はあい」と少し不服ながらも俺たちの目の前ではちゃんと降りた。
「みて!これ!かるいの!しかもかっこいい!!こうやっておりたためるからもちはこびもべんり!」
どこのセールスマンだよ。
「キラキラの光るやつじゃないのか?」
「うん!こういうかっこいいやつの方がすき!」
目をキラキラさせて「これがいい!」沙菜が綾乃にねだる。我が家は綾乃のジャッジが通らないとパパの財布の紐が緩まないことを娘たちは理解している。だからまずは綾乃に訊ねた。そういうところはちゃっかりしている。
「これどこから持ってきたの?値段は?」
綾乃が尋ねたら沙菜は天使のような無邪気な笑顔でにっこりと微笑みながら教えてくれた。
「さんまんえん!」
「は?」
「さんまんいっせん、えーっと」
「いや、それ三万でおつりこないじゃない」
「じゃあ、さんまんごせんえんぐらい」
「えらい増えたわね」
「しょーひぜー」
ブイッとする沙菜に呆れる俺たち。
しかし「さんまん」と綾乃がもう一度繰り返してハタと気づいたらしい。
「え?三万?高くない?」
綾乃が俺に同意を求める。
確かに小学生のクリスマスプレゼントにしたら高い方だろう。
だが、ここで、違うものを薦めたところで沙菜はきっと首を縦に振らない。
「…………沙菜使う時の約束守れる?」
「うん!」
「危ないからね、言ってるの。もしかすると沙菜大きな怪我するかもしれないんだよ。わかってる?」
「わかってる!」
本当かいな、と綾乃が半目になっている。
だが、ここまで買う気になっている娘の気持ちをポッキリ折るつもりはない。
安かろうが高かろうが同じキックボード。
使い方は同じで気をつけなければいけないことも同じだ。
「……はぁ、わかったよ。そのかわり、これ以上買わない。いいね」
「うん!ありがとう!パパ大好きっ♡」
ぎゅう、とくっついてくる娘の頭を撫でていると白い目がじとーと向けられる。苦笑すれば「ちょろいわね!」と口パクで怒られて甘んじてそれを受け入れるしかなかった。
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