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ラグジュアリーなホテルで欲望のままに過ごした翌日は仕事だった。当たり前の日常が戻りつつある中、お盆休みに入り、綾乃と二人実家に戻った。
少し顔を出して、墓参りをして濱坂の店を冷やかして夕ご飯を皆で食べる。
その夜は久しぶりにお互いの実家で過ごして、翌朝早くに実家を出た。
「一晩会ってないだけで変な感じね」
「そうだな。一人で寝るのは寂しい」
ハンドルを握っていない方の手で綾乃の手を握る。「前ちゃんと見て」と文句を言いながらも嬉しそうにする綾乃が可愛い。
「なんかいいかも。たまには」
「?」
「職場も家も一緒だと雅とずっと一緒じゃない?たまには離れる時間があってもいいなって」
「いや、よくないから」
俺はいつだって一緒がいい。
職場だって一緒だけど、部屋が違うし会わない時すらある。
朝同じ家から出て行って同じ家に帰ってくるだけで、同じ職場でも毎日会えるわけじゃない。
「メリハリあるじゃない」
「そういうメリハリはいらない」
「そう?」
「会いたくて仕方ない、とかそういう苦しいだけじゃん。触りたいのに触れないとか結婚してるのにただの拷問」
「だから会えた時嬉しいんでしょ?」
「綾乃を解放してあげられないよ?いいの?」
今ですら引き摺り込んでいる自覚があるのに、会えない時間があるとかヤメロ。会えない時間が愛を育むとかないから。ただ欲望だけを育たせるだけじゃん。
「えー、それはやだ」
「でしょ?」
「んー、でも子どもができたらしばらく実家に戻るよ?」
「それはまあ仕方ないけどさ」
それはもうずっと綾乃と話をつけている。
子どもができたら綾乃は一度実家に戻る。
出産は都内でしてくれるという。
俺が立ち会いたいって言ってるから希望は叶えてくれるらしい。
「その時はまあ、それどころじゃないと思うけどね」
もしかすると俺はその時には綾乃に愛想尽かされているかもしれない。子どもが1番になって俺の優先順位は下がるのだろうか、と今から心配している。
「そういえば、九条くん休み取るって?」
「うーん、なんか親子水入らずだし、自分がいても何もできないしどうしようかって悩んでた」
「BNの件もあるしね」
玲ちゃんの出産後、梓は一人東京に残る方向で動いていた。気持ち的には玲ちゃんの傍にいたいようだが、仕事のことを考えるとなかなか行動に移せないらしい。
たしかに梓のいうことも一理はある。
自分がいたところで、と思うかもしれないが双子ならむしろいた方がいいんじゃなかろうか。
「まあ、玲ちゃん家にはプロが2人いるから自分の出る幕はないって思ったんでしょうね」
玲ちゃんのご兄弟に双子がいる。
つまり、彼女のご両親は双子育児のスーパープロ。おまけに玲ちゃんもプロだ。こと双子に関しては身近に彼女ほど詳しい人は居ないと思う。
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