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「梓ダ」
「梓じゃん」
子どもの顔を見た瞬間、俺と凌は口を揃えた。
先に未玖ちゃんが見舞っていて、軽く挨拶をした後、生まれたばかりの赤ちゃんを見せてもらう。
「うわー、ちっちゃ。かわいい」
ベッドの中を眺めてついこぼれた。
まだ目が見えていないせいか、俺たちを見ても怖がらない。しきりに目をキョロキョロさせている。人差し指をそっと小さな手のひらに近づければ、とても高い体温に「生きてるんだな」と彼の生命力を感じた。
「ちびあず1号と2号だって」
「ちびあずって」
梓はベッドの隣にある椅子に座って玲ちゃんにぴったり寄り添っている。
俺と凌は小さなベッドの中を眺めながら彼らと話をしていた。
「未玖ちゃん久しぶりだね」
「そうですか?7月にバーベキューしたからそれ以来ですかね」
彼女は少し惚けたふりをしたように見えた。
なんとなく、そわそわしている。
あとは、若干窶れたのか。
もともと細い方だったけど、なんだか顔色が良くない。
「そっか。ならそれほどじゃないね」
そんな話をしていると、玲ちゃんがよいしょ、と腰を上げた。よたよたとしながらベッドに近づく。小さな命の息吹を抱き上げて「どうぞ」と渡された。その時の笑顔がもうなんというか、母だった。彼女のことは前から知ってるけど、こんなふうに笑うんだ、と一瞬驚いた。
「こっちが1号?」
「はい。まだ名前は決まってません」
恐る恐る腕に抱かせてもらう。
首が座ってないし、落としたら怖いので椅子に座らせてもらいながら強い生命力の塊を抱き上げる。
「ぁあー」
「おおっ、はじめまして」
何を言えばわからなくてとりあえず挨拶すれば、2号を受け取った凌も「たしかに」と言いながら挨拶をする。
2人は人見知りすることなく、ご機嫌なようできゃっきゃと声をあげていた。それは、隣で玲ちゃんが2人をあやしてくれていたからだとわかっている。
「あ、そろそろ次の予定あるから帰るね」
そこに未玖ちゃんが立ち上がった。玲ちゃんはさすがに気づいていそうだけど、今は何も言わないらしい。目が少しだけ心配そうだったけどいつものように柔らかい笑顔で彼女を見送った。
「未玖、ありがとう。気をつけて」
「またくるね。木下さん、香月さんお先に。九条さん、玲のことよろしく」
「わかってる」
未玖ちゃんを送り出したものの、その後凌もすぐに帰ると言い出した。たしかに仕事はたんまり山ほどある。
「雅、ゆっくりしてけヨ。オレも一旦仕事もどるワ」
「おう」
「玲チャン、ゆっくり休んで」
「ありがとうございます」
「梓はまた明日ナ」
ん、と梓は凌に軽く手を上げる。2号を受け取った玲ちゃんはそのまま梓に渡した。
「パパだよーって」
「名前どうしようか」
「漢字一文字がいいな」
梓も玲ちゃんも一文字だな、と玲ちゃんのリクエストを聞きながら思った。2人とも男の子だし、きっとカッコいい名前をつけるのだろう。
腕に抱く1号と次に会う時は名前を呼んでやれることを願った。
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