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俺は百子さんみたいな、いかにも『母ちゃん』感のある人は好きだ。なんだか安心するし、太陽みたいに明るい彼女はいるだけで周囲を明るくしてくれる。
もちろん、彼女の血を引いた綾乃もそう。
そして、努力家なのは父親譲りなんだろう。
「たしかに昔からよく似てるとは言われたけど」
そうなのか。昔の綾乃は黙々と努力するだけで、教室ではあまり女子たちとワイワイしてるイメージはなかった。やることはやる、その後に友達と結構優先順位がはっきりしていた。
「そうなの?今なら思うけど昔はそう思わなかったな」
だからそのことを伝えれば綾乃は笑った。
「学校では猫かぶってたのよ」
「そうなの?」
「うん。あとは、周りに引きづられないように自制かな」
中学生なのに、そんなことまで考えていたのか。とてもストイックだと思っていたけどそこまでだったとは思っていなかった。
「康兄が中学生になった時中弛みして、成績がグッと落ちたの。あ、柔道のね?あの人勉強はもともと出来ないし。そこに柔道の成績も奮わないってなったから母がめちゃくちゃ怒ってたのよ」
「へえ」
あのお母さんが本気で怒るのはちょっと見てみたい気もする。でも怖いところもある。だってすげー怖そうだから。
「ご飯抜きよ!って脅されてたの見てたから康兄みたいにならないようにって。まあ、反面教師みたいなものね」
綾乃は肩を竦めながら「手洗ってきて」と一言残してキッチンに戻っていった。
エプロンの結び目のあるウエストはまだキュッと締まっていて、まだそこに膨らみも、その蕾もかんじられない。
「早くそういう悩みを共有できればいいな」
有難いことに綾乃の両親も俺ん家の両親も健在だ。まだまだ逝くことはないだろうが、いついなくなってもおかしくない年齢だ。
「沢山教えてもらわないとな」
過去の恥ずかしい思い出たちも引っ張り出してきそうだし、余計なことをアレコレ吹き込まれてまた綾乃に弄られるんだろうな。
若干げんなりしたけれど、それはそれで仕方ないし嫌でもない。
「早く会いたいな。絶対可愛い」
俺と綾乃の子どもなんだから。
まだ見ぬ子ども達とてんやわんやしている自分達の未来を想像して口元を緩めた。
それほど遠くない日常になることを願いながら、それまでは彼女と二人の時間を楽しもう。
俺は綾乃の言う通り大人しく手を洗いに洗面台に向かった。
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