6288人が本棚に入れています
本棚に追加
/337ページ
安定期に入るまでは、実家にも連絡しなかった。あと一ヶ月もすれば新しい年が始まる。
綾乃を盛大に祝ってもらおうと俺が画策する中で、まず先に綾乃の誕生日がきた。
「おめでとう、綾乃」
12月に入り、梓が渋々戻ってきた。
仕事の合間に携帯をチェックしては、玲ちゃんとすれ違い泣きそうになっている。そんな梓に全て丸投げをして、俺はこの日だけは早めにあがった。
「ふふふ。ありがとう」
社内はクリスマス一色だが、俺はキリストの誕生日より綾乃の誕生日が大事だ。
幸い、つわりは酷くないため料理をしていてもそれほど苦ではないらしい。
「食べられるもの好きなだけ食べて」
「どれもおいしそうよ」
「そう言ってもらえただけで作った甲斐があったよ」
綾乃の好きなオニオングラタンスープを始め、クラッカーや野菜にいくつかのディップを準備した。
「このディップおいしいわ」
「そう?ならいいよ。こっちの春巻きはたべる?」
何か全てを作るのは難しく、また綾乃の今の体調に合わせた料理が分からない。だから、簡単である好きなものを選べるようにしたら、それがよかったみたい。
綾乃は好きなものを好きなだけ食べた。
炭酸水で乾杯して、なんてない世間話をする。
食べ終わればいつものようにふたりで風呂に入る。
「まだ分かんないよ?」
「うん」
綾乃のまだ、膨らみのないお腹を撫でていると彼女が苦笑した。
別にいい。わからなくてもいい。
けど、ここにいるのは確かなんだ。
だから俺は毎日この子を撫でる。
「それでもいい。ここにいるならきっと俺が撫でてるのわかってるはずだから」
綾乃を背後から抱え込みながら優しくなでる。
撫でながらこの子に声をかけた。
「大きくそだてよー」
「まだ耳聴こえないんじゃない?」
「それでもいいじゃん」
いいんだ、それで。
俺はこの子の成長が凄く楽しみで、会いたいと切望していることを伝えたいだけなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!