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「メリークリスマス!」
それから一週間後。キリストの誕生日がきた。
前回綾乃の誕生日を祝ったので、俺たちにとってキリストの誕生日はただ街がイベントしてるから便乗してやろう、ぐらいの気持ち。
その日も俺はあと数日後の年末年始の休暇のために少し遅くまで仕事をしていた。
「……どしたの、それ」
ヘトヘトになって帰ってくれば、綾乃が何故かトナカイの着ぐるみを着ている。
「今年は趣向を変えてみたの」
「エロいやつじゃないんだ」
「そうなの」
「残念」
もこもこの着ぐるみを着た綾乃を抱きしめながらただいまのキスをする。
すると、綾乃がとんでもないことを言い出した。
「雅のサイズもあるわ。だから」
「着ないよ」
「着るわよ」
「綾乃だけでいいじゃん」
「これ着て、数年後は子どもと祝うのよ」
「そんならそれはその時で。ってかトナカイで祝うの?」
「そうよ。チビサイズもあるわ」
ドヤっと胸を張るところが綾乃らしいけど、どこが自慢なのかわからない。
これなら、夢の国のキャラクターで仮装する方がマシだ。
「どうしてサンタじゃないの」
「なんかつまんないじゃない」
「つまんなくない」
「サンタだとありふれてるし、いつか子どもが『プレゼントは?』って言いだしたらどうするの?サンタは寝ている間にしかこないのよ」
「うちでは対面で会える!にしたら?」
「すぐに雅だってバレちゃうじゃない」
「俺はサンタで普段は会社員してる設定」
「夢がないわ、夢が」
もう数年後のクリスマスの話をするのはとても気がはやいかもしれない。
それでも、こんなくだらない、話をするのが楽しい。
「チキンやいて、ケーキやいて」
「どっちも買えば早いじゃん」
「そうだけど、そうじゃないのよ」
「どういう意味」
「一緒に作るの。その方が楽しいし」
綾乃はいい。それで楽しいかもしれない。
俺は休みを取るのか。夫婦そろって休みを取るのは……どうなんだ。
って、今からそんな心配しても仕方ないか。
「子どもがデコレーションしたケーキを食べるの」
「苺が全て食べられるかもしれない」
「それはそれで面白いわね」
綾乃が声なき声で笑う。きっとどんなクリスマスであっても、あたたかくて幸せで楽しい日になることは確実だった。
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