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綾乃がお風呂に入っている間、昼食作りを始めた。先に材料を切っていたおかげでほとんど鍋に入れて混ぜるだけだ。あとは飾りつけやらなんやらと少し華やかにする。昔飲食店でバイトしていた時に教えてもらったことを思い出しながらプレートにもこだわり盛り付けた。
「っし。味は」
綾乃の好きなオニオンスープグラタン。ハッシュドビーフ。サラダにチキンのトマト煮。次々と出来あがる昼食は自分でいうのもアレだが、まあまあ豪華だ。
「不味くはないはず」
味見をしてひとつ頷く。「大丈夫、食べられる」と心の中でガッツポーズをした。
飯食って、映画見る。
リラックスする頃には花束が届くだろう。
それがプロポーズのタイミングだ。
昔々。それこそもう二十年以上前のこと。
当時受験生だった俺たちは合格祈願と初詣を兼ねて大晦日の夜に地元の神社に集まった。
その時綾乃が口にした願い事を思い出す。
___好きな人のお嫁さんになれますようにッ!
神様だって耳がついてるんだから言わなきゃわからないでしょ、という彼女の言い分に納得した。恥ずかしいと思う一方で、叶うならこんな嬉しいことはない、と思った。
「……叶ってんじゃん」
今の今まで忘れていたけど早慶上一のどこかに入学したし、就活はインターン先にそのまま内定をもらい、凄く大変だったけど起業する梓にくっついて今は経営者の端くれ。一応、近いうちに取締役という肩書きももらえることになった。
そして、可愛くて面白い女性に。あの当時よりもずっと魅力的でパワフルな綾乃にプロポーズをする。
「……どんな顔するかな」
時期尚早なのは分かってる。
分かってるけど、何事も早いことに越したことはない。
「鈍感だからなあ。これでちゃんと分かってくれればいいけど」
結局ゴールが一緒なら、早く事を起こしたところで問題ないんだ。ただ綾乃が尻込みしない事を願うだけ。でもそれもきっとなんとかなると思ってる。
(やっと、男と女になれたんだ。何にでもなれる)
昨夜の情事を思い出して自分に言い聞かせた。
彼女は思っていた以上に性に対して積極的だった。相性も良い。つまり、懸念するすべきことな何もない、はず。とは言え、何が起こるかわからないから油断は禁物だ。
「大丈夫。綾乃は俺が好き。俺は綾乃が大好き。そしたらもう一緒にいるしかないじゃん」
俺は呪文のように言い聞かせながらせっせと彼女のために料理を拵え、イメージアップを図る。
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