世界でいちばん

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 けど俺はそんな綾乃が可愛くて仕方なかった。  今みたいに気まずそうに目を逸らす姿も、純粋な笑顔も、真剣な横顔も、初めて見せてくれた艶やかで色っぽい表情も。  「好き」だと自覚したのはもう遥か昔のこと。  諦めろと何度も自分に言い聞かせて心の奥底に気持ちを仕舞い込んだ。  何も思ってないふりして、いつも目は彼女を探す。見つければ嬉しくてついちゃちゃを入れたくなる。  それができていた中学生時代が幸せだと気づいたのはいつだっただろうか。  高校の時はかろうじて同じ学校だったから時々彼女の姿を見かけた。遠目で見るだけでよかったのに、大学で離れて少し見ないうちに変わってしまった。成人式で再会した彼女はすごく綺麗になっててめちゃくちゃ後悔した。  でもそれは、綾乃がその男の為に自分を磨いた結果だ。蛹から蝶にしたのは顔も名前も知らない男だった。悔しくて歯痒くて自分が情けなかった。でもやっぱり彼女との距離感を壊したくなくて何でもないふりして。長い間何もできずに、いや、何もせずにいたんだ。  ちらりと隣に座る綾乃を見る。  食事をして、片付けて、今は映画を観ていた。  これが終わるぐらいに花束が届くだろう。  時間的に言えば。  「…なに?」  「ん?」  なにもないよ、と甘えるように綾乃の肩に頭を乗せた。体重をかけすぎないように気をつける。  手は自然と細い腰を抱き彼女との触れ合いを求めた。  何もできなかったのに。何もしないと決めたのに。綾乃が他の男にとられると思うともう我慢できなかった。どうして今まで余裕ぶれたのかわからない。でも、今回はやばいと本気で思った。  「?」  綾乃がまたこちらを向く。  何か言いたげな視線を無視して唇をじっと見つめる。顔を傾けて目を閉じる。  綾乃は逃げなかった。  何度も合わせるだけのキスをした。  昨夜あれだけ恥ずかしいことをしたのに、なんとなく照れ臭くてお互いなんでもなかったように画面に視線を戻す。    
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