世界でいちばん

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 映画が終わり開口一番綾乃がお菓子の感想を口にした。そう言えばずーっともぐもぐしてたな、と食べかすのついた唇の端を見て苦笑する。 「デスクに置いておきたいわ」 「綾乃仕事しないじゃん」 「どこかの誰かさんが勝手に引き出し開けてわたしのおやつを取っていくから、もう目の前に出しておこうと思うの」  ふんす、とドヤ顔な彼女にまた笑う。  そんなの一日でなくなるじゃん。  綾乃だけじゃなくて凌とか普通に食べにきそうだし。   「誰だよ。そんな手癖の悪い奴は」 「えっとね、“き”からはじまって“び”で終わる名前の男性で、同じ部屋にデスクがあって」  “び”で終わる男性の名前って珍しいよな、なんてどうでもいいことを考える。  同じ部屋にデスクのある男って言えば俺しかいないのに細かい指摘が面白い。 「……誰だろう。思いつかないな」  わざと知らんふりしたら怒られた。 「ビー太郎っ」 「はははっ」  どさくさに紛れて綾乃を抱き込んで倒れ込む。  もう!と怒りながらも俺の腹の上でべったりとくっつく彼女が可愛すぎてつらい。  逃げないようにぎゅうと抱きしめる。  新品の部屋着の匂いと共に風呂上がりの彼女の香りも吸い込んだ。  同じシャンプーやボディーソープを使っているはずなのにどうしてこんなにも甘いのか。  よしよしと頭をなでながら下から見上げる。  綾乃との距離がほとんどないのに唇が触れられないのはとてももどかしかった。  「綾乃」  キスしてと子どものようにねだる。  唇を突き出してアピールしてるのに綾乃は「いやだ」と顔を顰めた。  「いーじゃん。キスぐらい」  ご褒美ご褒美、と言っても綾乃はきいてくれない。「えー」と綾乃まで唇を突き出している。  ___ピンポーン ドキッとしたのを誤魔化すように綾乃の唇に軽いキスをした。ちゅ、と唇を押し付ければきょとんとする彼女が可愛いすぎてつらい(しつこい)  「後でいっぱいご褒美貰おうかな」  俺は一世一代の勝負にむかう。  大丈夫だろう、という気持ちと断られたらどうしようという不安。  綾乃にお菓子に見せかけた指輪を包んだものを渡すとなんでもないふりして玄関に向かった。        
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