世界でいちばん

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 花屋から花束を受け取り小さく深呼吸をした。  今頃綾乃はお菓子に模倣した指輪の入った袋を開けているかもしれない。  いや、もう開けただろうか。  タイミング的には開けてくれた方が話は早い。  「……しっ」  プロポーズの言葉をずっと考えていた。  「結婚してください」はシンプルでいいけれど違う言葉を伝えたかった。俺は歌手じゃないしポエマーでもないから記憶に残るような言葉が思いつかないのは仕方ない。  それでも彼女の特別を作りたくて  いつかそんな昔話を笑いながらしたかった。  いつも歩く廊下が随分近く感じる。扉の近くで聞き耳を立てた。だけど綾乃の様子はわからない。物音ひとつしなかった。  「雅、こ……れ、」  扉を開ければ呆然とする綾乃が花束の向こう側から見えた。その反応が良いのか悪いのか分からずさりげなく花束で顔を隠す。  断られるという考えはない。  ただ、まだ時期尚早だったかもしれないという不安はある。  綾乃が婚活してたのは知ってるしいつか結婚したいと考えていることもわかってる。  他の男と結婚考えて俺とできないはずはない。  だから、初めから「俺と結婚できない」という答えはないとは思ってたけど、やっぱり不安はつきまとうものだ。何事も絶対なんてなんだから。  ソファーに座る綾乃の前で片膝を付く。  お揃いの部屋着ですっぴんでなんの飾りも誤魔化しもない。ロマンチックでもなければ綾乃にとって憧れのシチュエーションでもないだろう。  だけど、だから、これでいい。  俺たちらしくてこれでいい。  出逢って二十三年。  人生のほとんどを友人として仲間として過ごした。だからこそ、今日からは違う形で傍にいてほしい。そんな関係性である未来を約束してほしい。 「綾乃、誕生日おめでとう。来年も、再来年も、この先ずっと、俺は綾乃と一緒に年を重ねていきたいと思う」  未来永劫、綾乃の誕生日を1番に祝いたい。  彼女がいるなんでもない日常に幸せを噛み締めながら笑って怒って泣いて、一番近くで、彼女の傍でその顔を見ていたいんだ。    だからどうか頷いて。  無条件で傍にいる権利を俺にください。      
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