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「……ぐふっ」
腹の上に大きな塊が落ちてきた。
布団の上からでもわかるぐらいの質量だった。
「ぱぱ、おきてー」
薄目を開ければ俺の胸の上で腹這いになる娘咲茉(4才)と目が合った。誰に似たのか家族の誰よりもマイペースで我が道をいくタイプだ。そして、昨年弟の伊織が産まれてお姉ちゃんを発揮している。
「もうくじすぎたよー」
「もうちょっと寝かせてよ」
「だめー!いおもいくのよ」
わかってるよ、と言いながら目を閉じる。
腹の上にいる娘を抱き込めば「きゃはは」と笑いながら自ら潜り込んできた。
「ママは?」
「ママお洗濯してる」
「10分したら起こして」
「いま、くじ、えーっと、10と15のあいだだから」
パタパタと足音が聞こえた。
その音は子どもの足音だった。
「咲茉、隠れろ」
「えー」
「沙菜くる」
ハッとした咲茉が布団の中に潜る。
ノックをすることもなくバーンと扉が開くと元気な声が脳を揺さぶった。
「パパー!!いつまでねてるの!」
咲茉が布団の中でプークスクスと笑っている。
「えまがさきにおこしたのに」と俺を起こすことでマウントをとっているようだった。
可愛い競争にほっこりする。
「パパ起きてるよ」
「それは寝てるっていうのよ」
沙菜が次第に綾乃に似てきた。話し方や言葉もすっかりミニチュア綾乃だ。
「沙菜」
俺はそんな妻に似た娘を呼ぶ。
おいで、と言えばちょっとだけ顔を顰めた娘が近寄ってきた。そんなひとつひとつの仕草も綾乃と同じだ。
「ばーっ!!」
布団を捲れば隠れた咲茉が変顔と共に沙菜を驚かせた。沙菜は「きゃぁあああ!」と言って驚いたあと我に返りゲラゲラと笑い始める。
「おねえちゃんもかくれる?」
「えーー」
「そのうちママくるんじゃない?」
沙菜は誰に似たのか負けず嫌いだ。つまりやられたらやられっぱなしは性に合わない。
咲茉が俺の腹の上を転がりながら沙菜に場所を譲る。また「ぐふっ」っとならないように腹に力を入れた。沙菜が潜り込むと移動した咲茉が「あ、ママの匂いする!」と嬉しそうに笑う。
「ママの匂いいい匂い」
「パパは?」
「ぱぱはね」
するとスリッパをパタパタさせる音が聞こえた。「しぃ!」と沙菜が咲茉に注意する。
ふたりはくすくすしながら布団の中に潜り込むと今か今かと綾乃がくるのを待ち構えていた。
「あれ?沙菜と咲茉は?」
扉が開くと隙間からぺたぺたと最近歩くことを覚えた息子の伊織が寝室にやってきた。その様子を眺めていると綾乃が俺の両脇で不自然に膨らんだ布団に気がついたらしい。
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