世界でいちばん

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 「ママ、なにする?!」  「中トロと備長マグロと」  席につくなりタブレットを手にすると沙菜と綾乃が好きなものを注文し始めた。俺の隣に座る咲茉はレーン側で、流れてくる寿司に目を輝かせている。  「沙菜、注文終わったらコップにお茶パックひとつずついれて」  「これもうとっていい?」  「いいよ」  沙菜の近くにお茶パックが置かれており俺は人数分の湯呑みを彼女たちの前におく。  沙菜はちらりとそれを見てテーブルの真ん中に持ってくると綾乃が「はいはい」とすべての湯呑みにお茶パックを入れてお湯をそそいでくれた。  咲茉は流れてきた寿司、甘エビにネギトロにとすでにとり始めている。  「ぱぱ、なにたべる?」  「いおのたまご流れてきたよ」    沙菜が流れてきたたまごを手にするとはいと俺の前に置いた。膝の上に座る伊織がその皿に手を伸ばそうとする。  「綾乃、うどんと茶碗蒸し頼んだ?」    あたたかいお茶はいいなあ、とさっそくお茶を飲んでいる綾乃。先ほどまとめて注文していたので確認した。  これらは伊織の食事だ。酢飯も食べられるがまだ生魚は食べさせていない。たまごは小さく切ってあげる。ただ最近は気になるようならあまり制限はさせてない。もちろん身体に良くないものや明らかに食べてはいけないものは与えないが。  「いお、だめ」  「やー」  「これ、まんま。あーんするの」  そんな息子はなんでも手で掴みたがる。  今だってクリームパンのようなぷくぷくした手が伸びてたまごのお寿司を取ろうとした。    「まんま!」  「そう。いお、おっちんして。ほらお姉ちゃんたち、おっちんしてるよ」  伊織は咲茉と沙菜を見て乗り出した身体を素直に落ち着かせた。「えらいね」と頭を撫でながら大人しくしてくれるうちに酢飯を与える。雛鳥のように口を開けて待つ伊織は与えられた酢飯を小さい口で一生懸命咀嚼していた。  こういう時(外食時)は俺が先に伊織に食べさせはじめることが多い。綾乃は綾乃で少し早めに食べ終えてくれる。そのあと伊織を見るパターンだ。俺がゆっくり食事をしながら嫁と息子の笑顔を見る。最高すぎて文句はない。  「ぱぱ、うにー!」  「好きなの食べな」  「パパ鰻あるよ。食べる?」  「じゃあ食べようかな」  「うにはいらない?あ、あぶりさーもん!」  「炙りサーモンいいね」  「えまもそれたべたいからいっこずつしよ」  「はいはい」  伊織の世話をしていると、娘たちは俺の世話をしてくれる。そんなお節介を焼く娘の姿に彼女たちの成長を感じた。ふと正面を見れば綾乃と目が合う。彼女もまた、柔らかい眼差しを娘たちに向けていてクスっと笑ってガリを口にするのだった。      
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