世界でいちばん

30/37
前へ
/337ページ
次へ
 正直俺も綾乃も音楽は専門外だった。自信を持てるのはカラオケぐらいだろうか。それもJ -POPのみ。洋楽もクラシックもジャズも分からなければ、楽器に関しててんでダメ。音楽の授業を振り返っても辛うじてドレミファソラシドを理解し、リコーダーを吹けるぐらいだった。  「未玖ちゃん家にいるって」  「じゃあ行くか」 咲茉にはきちんと理由を説明し納得した上でその場を離れた。 ピアノにも良し悪しがあるだろう。それに買って終わりではなく咲茉の場合はきちんとレッスンも受けさせた方が良いかもしれない。  「「こんにちはー」」  「ごめんね、こんな休日に」  香月家に到着しドアフォンを押す。  扉が開かれて未玖ちゃんが顔を出すや否や沙菜と咲茉の声がきれいにはもった。  「いーえ。でも今、怜空も瑠莉もいないの。凌とちゅん連れてドックランに行ってて。よかったら上がって待ってて」  日曜日の昼さがり。12月にしては暖かい日差しが出ていた。  すっかりと家犬化した”ちゅん”ことシベリアン・ハスキーの駿は凛々しい顔つきに似合った引き締まった体躯をしていたのに最近少し丸くなってきたらしい。    「パパ、さなもドッグランいきたい!キックボードだして」  「もう乗るの?」  「うん!パパも行こ?」  それを聞いた沙菜は俺にドッグランに行こうと誘う。一人で行くと怒られるのがわかっているのか俺を誘ったようだ。  「伊織、預かるわ」  「はいはい」  綾乃が「行ってこい」と無言の圧を送る。咲茉は綾乃と待っていることにしたらしい。その代わり。  「るりちゃんまま、ぴあの、ひかせてください」  「いいわよ。瑠莉ったら全然弾かないから。咲茉ちゃんきた時ぐらいなの」  未玖ちゃんが苦笑している。  「邪魔なのよー」とぶっちゃけた本音に綾乃までうんうんと頷いた。  
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6296人が本棚に入れています
本棚に追加