世界でいちばん

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 早速買ったばかりのキックボードを箱から出した。沙菜は嬉しそうに飛び乗ると振り返りながら漕ぎ出した。  「沙菜、前見て」  「パパ早く」  「わかってるから。前!」  はーい!と口だけの返事を聞きながらぴょんぴょん嬉しそうに遠ざかる背中を眺める。時折立ち止まり振り返って俺がくるのを待つ。あまり距離が離れないように彼女の中で何か決めているらしい。  「りっくんいるかな〜?」  「沙菜は怜空にそれ自慢したかったんでしょ?」  「そ、そんなことないよー?」    声が裏返っているし視線が泳いでいる。元々自慢したがりなので仕方ないが、怜空が貸してほしいと言った時沙菜は貸してやれるのか甚だ疑問だ。  「もし、怜空が貸してって言ったら貸してあげられる?」  「う、うん!」  「本当に?」  「ほんとに!」  きっと渋々貸すんだろうな、と娘の性格を考えてバレないようにこっそりとため息をついた。  天気も良く休日の午後はドッグランは盛況だった。  たくさんの犬たちがいて、それなりに人もいる。  我が家も犬が欲しい、と時々娘たちがねだってくるが今は伊織が小さいからダメだと言い聞かせている。ただこの理屈は伊織がある程度大きくなるまでしか使えない。その時が来れば、まあどうにかなるだろうと考えている。  「いた!りっくーんっ!!」  沙菜の声はよく通る。その上声を張り上げているのだ。  当然のように怜空は振り返った。ついでに凌もこちらに気づいたらしい。  「さなちゃん、どうしたのー?」  「みて!キックボード、買ってもらったの!」  「えええ!いいなー!かっこいいー!」  「えへへへへ」  純粋に目をキラキラさせた怜空と褒められてドヤ顔で鼻高々の沙菜。  そんな二人に苦笑していると凌が「オウ」とやってくる。  「珍しーナ。ここまでくンの」  「沙菜がさっき買ったばかりのキックボード乗りたいって言うからさ」  「なるほどナ」  沙菜は早速キックボードをお披露目して気分がすこぶるよさそうだった。  怜空が褒めちぎることに気を良くしたので約束通り怜空にも貸してあげている。  「瑠莉は?」  「ン?チュンと走り回ってるゼ。今チュンが鬼だからナ」  「鬼ってなに?鬼ごっこ??」  「ソーソー。瑠莉におやつ持たせて走らせてる」  「結局食うんじゃん」  「ハハハハハハ」  瑠莉は誰に似たのか足が早かった。凌の血でないことは確かだ。    「パーパー」  「オ。オツカレ。チュンは?」  「ちゅん、あっちにすわっちゃった」  あ、さなちゃん!と怜空と沙菜がキックボードで遊ぶ様子を見て瑠莉が外に出てきた。やれやれと凌が肩をすくめる。バテて座り込んでいるちゅんを「連れてくる」というと、いくぶん丸くなったちゅんが「はあはあ」言いながら嬉しそうに尻尾を振っていた。(ちゅんの声:やっと帰れる!)  
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