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子どもたちは沙菜のキックボードを順番に乗りながらワイワイと楽しそうに凌の自宅に戻ってきた。
ちゅんは玄関で足の裏を綺麗に拭いたあと、足取り軽くリビングに向かう。未玖ちゃんを見つけると甘えるように擦り寄っていった。「オレの前と態度が違うじゃねえか」と凌の呟きに苦笑する。ちゅんは華麗にスルーしていたがこれが通常運転なのだろう。
「ちゅん、おかえり。1kgぐらい減った?」
ダイエットは未玖ちゃん主導らしい。なんでも丸いハスキーはハスキーじゃないと言っている。
「たしかに丸いわね」
「誰かさんがこっそり良い餌あげてるからね〜」
未玖ちゃんが凌に視線を送る。『せっかく痩せてきてるんだから与えすぎないように』と注意しているらしい。凌は決まり悪そうに目を逸らした。
多分鬼ごっこしながらお菓子をあげてるなんて知られたらまた怒られるんじゃないだろうか。凌のためにも黙っておくことにしよう。
「ママ、ちゅんに豆乳あげていい?」
「いいわよ。カップで計ってね」
怜空が豆乳のパックを持てばちゅんがのっそりと起き上がり怜空に続く。
「タンパク質とって運動よ」
「なるほどね」
「犬のお菓子ってなんだかんだ小麦なのよね」
たしかに、と俺は頷きながらよく勉強してるなあ、と感心した。未玖ちゃんの最近のブームはちゅんがなるべく楽しく苦しくなくダイエットできるように考える事らしい。
「綾乃、咲茉は?」
「ずっとピアノ弾いてるわ。さっき瑠莉ちゃんと沙菜も降りていった」
香月家の音楽室は地下室だ。防音効果ばっちりなので、音はほとんどリビングまで聴こえてこない。階段の近くに行けば子ども特有の舌足らずで高い声は聞こえるもののなにを喋っているかはわからなかった。
「イオリだけだゼ。オレの味方は!」
おいで、と綾乃の膝に座る伊織の前で凌は両手を広げた。だが、しばし見つめあったあと伊織にぷんとそっぽをむかれる。
「ふんっ」
「ナンデダヨ!」
「きゃははははっ」
これはもうお決まりの挨拶みたいなものだった。「ぷんすればだっこ」と伊織の幼い頭の中にインプットされているらしい。
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