世界でいちばん

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 凌に抱っこされ「タカイタカーイ」と遊んでもらった伊織は終始大喜びだった。綾乃と未玖ちゃんは「またやってる」とスルーだが、怜空は「いいなあ」と目を輝かせている。  「怜空はもうおっき過ぎてムリ」  「ぼく大きくなったから!」    沙菜も怜空ももう7歳。幼児とは言えない大きさだった。怜空は誰に似たのか純粋で素直で可愛いままだけど、沙菜は口が達者すぎる。  「ちゅんも7歳ね〜」  「あぅぅ」  ちゅんは怜空に撫でろと頭をぶつけた。怜空はそんなちゅんの頭を抱きしめるとわしゃわしゃと撫で回しす。凌の腕から逃げてきた伊織がまだおぼつかない二足歩行でそこに突撃した。  「わんわー」  ぎゅう、と抱きついたのと伊織が転けたのは同時だった。だがちゅんが寄り添うように伏せたおかげで身体に抱きついたように見えた。  「ちゅん、かしこい!」  「そうなのよ。時々中に人間が入ってないかと思うぐらい気がきくのよ」  綾乃が「ぉおっ!」と小さく拍手をすると未玖ちゃんが苦笑する。「チャックついてるぜ」と凌が笑って「ちゅんは犬だよ!」と怜空が唇を尖らせた。    「ちゅん、いいこね〜」  「わんわーっ」  ちゅんは小さな子には優しいらしく、伊織がくると自主的に子守りをしてくれる。伊織も慣れているせいか、ちゅんにべったりで、怜空とふたり遊んでいる姿を見ると本当の兄弟みたいに見えた。  ____ピンポーン  チャイムが鳴り、ちゅんがハッとして立ち上がると率先して玄関に向かった。伊織はコロリところげて楽しそうに笑っている。  「りっくーん!」  「りっくーーんっ」  そこに子どもたちの声が聞こえたと思ったらちゅんに続いて玄関に向かった凌が「まあ上がれヨ」と言っているのが聞こえた。思わず綾乃と顔を見合わせて未玖ちゃんに視線を向ける。  「玲よ。夕方立ち寄るって言ってたの」  未玖ちゃんが苦笑しているとちゅんが戻ってきて椿と環が一緒になって入ってきた。  「あ!さなちゃんのパパとママだ!」  「こんにちは!」  「こんにちは!さなちゃんは?」  「沙菜なら下でピアノ弾いてるよ」  九条家は金曜日から長野へスキーをしに行っていたらしく、そのお土産を持って香月家に訪れたという。  「雪だるま作ったよ!」  「雪だるま?いいなあ!」  「スキーも滑った!むずかしかったー」  「いっぱいこけた」  椿と環が怜空に報告しながら「おみやげ」とお菓子を渡している。  「おう、お疲れ」  「あぁ。さすがに疲れた」  凌に続いて入ってきたのは九条夫妻だった。ちょっと疲れた顔して眠そうにあくびをしている梓。そんな彼に「さっきまで寝ていたのは誰かな?」と玲ちゃんの黒い微笑みが炸裂する。              
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