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しばし私達の間に店内の騒がしくも明るい空気とは違う、やっぱり重い空気がのしかかった。
「私こそごめん。ちょっと言い過ぎた。とりあえず関西は内熨斗が多いから。内熨斗にしとくね。で結婚のお祝い返しだから結切の内祝いで、」
重い気持ちを振り払うかのようにサラサラとメモに必要事項を記入する。
「名前。名字だけでもいいと思うけど新郎・新婦の名前入れとく?」
「うん」
「じゃ、ここに名前書いて。名字の下に左右ね。左側に湊の名前。右に新婦様の名前ね」
私はさっと説明しながら内祝いと書いたメモと万年筆を渡す。
湊は丸文字で自分の苗字と花嫁の名前を書いた。
「あ、この万年筆。僕がプレゼントしたやつだ
まだ使ってくれていたんだね」
インク入れたらずっと使えるし。
とか、言い返そうと思ったが何も言えずに万年筆を返して貰った。
その万年筆で書かれた花嫁名前は私の知らない名前だった。
「じゃ。これで承りました。お熨斗を筆耕の先生にお願いするので3時間後にまたギフトを取りに来て下さい」
今日は混み合っている。
時間を多めに見積もった。
湊のギフト以外にもたくさんやる事はある。
私の頭は次の仕事の処理の手順を考え始めていた。
「分かった。じゃ、また後で。貴子は今でも仕事が恋人だね。僕は勝てなかった」
勝ちに行かなかった癖に。
そんな言葉を飲み込んで私は湊を見送った。
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