57人が本棚に入れています
本棚に追加
ちっともめでたくない
「ご結婚オメデトウゴザイマス。お熨斗紙は付けますか?」
「……お願いします」
「では、表書きは如何致しましょうか」
「お、表書き?」
「……内熨斗? 外熨斗?」
「内? 外?」
目を白黒させる元彼──湊。
「はぁ。そうやって熨斗の意味も分かんないなら無理して付けるのやめたら? リボン包装でいいじゃん」
「貴子は相変わらずだなぁ。でも、こーゆーのって大事らしいし。それに結婚の事だし」
もにゃもにゃと言葉を濁らせて「教えてよ貴子」とふにゃりと笑う湊。
結婚。
もちろん私とではない。
3年間付き合った私と別れて半年程で湊は新しい彼女を見つけた。
そしてスピード結婚に至ったそうだ。
そして、あろう事か私の働いている百貨店のブライダルカウンターにて、内祝いのギフトを買いに湊はふらりとやってきたのだった。
私はまだシングルで25歳。
仕事が忙し過ぎて出合いすらない。
そんな私に当て付けかのように湊は「連絡取れなくてずっと言えなかった。今度結婚するんだ。そのギフトを貴子に選んで欲しい」とお客様ヅラして現れた。
いや、お客様に違いないのたけども。
お客様として来た以上、嫌とは言えない。
しかし昔のよしみと3年間の想いがあって私は接客を投げ出した。
幸い今使用しているカウンターは部屋の隅で、他のお客様の目や同僚に内容を聞かれる事もないだろう。
それに今日は祝日。
店内はごった返す程に忙しく皆バタバタしていた。
「いやぁ。相変わらず忙しい職場だねぇ」
「……嫌味? それが別れた理由なの知ってるでしょ?」
ごめんと、叱られた子犬みたいにしょげる湊。
そう、私は多忙過ぎて恋愛を疎かにした。
湊の返事を返すより仕事の返事を返す事を選んだ。
デートの時間よりも仕事の時間。
二人の時間よりも一人での休息時間。
私が悪かったと思うが、お金を稼がないと生きて行けない。
だったらどうすれば良かったか。
今も答えは出せずにこの事を考えると気持ちが重くなるばかりだった。
最初のコメントを投稿しよう!