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「おじさんとおばさんには、改めてきちんと挨拶に行くよ」
「おう! かしこまったのはいいから近いうちに夕飯食いに来いよ、カレー作ってくれるよう頼んどくからさ。お前うちの母ちゃんのカレー好きだろ?」
「うん」
お互いに少し頬を染めながらそう同意すると、蒼矢は肩の鞄をかけ直す。
「じゃ、また」
「いやいや、ちょっと待てよ」
「?」
用は済んだと足を進めようとする蒼矢を止め、烈は振り返る彼を軽く睨んだ。
「俺への礼がまだだろ」
「え?」
「え、じゃねーよ! 俺のお前への気持ちはどうでもいいってのか!? 不公平だ!!」
烈は腰に手を当てて仁王立ちになり、蒼矢へ頬を膨らませてみせる。
少し滑稽に見えたものの彼自身は至って真面目に怒っているようで、その意を酌んで蒼矢は向き直り、同じように真剣な視線を返した。
「そうだったな。怪我した件でもこの前も、お前には心配かけた。…どうすればいい?」
「…買い物」
「…ん?」
蒼矢に見守られる中、烈は勢いよくズボンのポケットへ手を突っ込むと、両手でわさわさと整えてから彼の目の前にB5大の用紙を広げてみせた。
「ここ、行くぞ!」
ややしわの寄ったコピー紙には、近郊のショッピングモールの中広場で開催されるフリーマーケットの案内がしたためられていた。
目を点にしながら文面を読む蒼矢へ、依然興奮した面持ちで烈は訴えかけた。
「前から月一くらいでやっててさ、一度行ってみたかったんだよ! この辺の住民の持ちよりらしくてさ、ミニ四駆とかプラモとか出してるやつがいるんだって。掘り出しもんもあるかもしれねぇし、面白そうだろ?」
「それくらいお前だけで行けば…」
「それじゃつまんねぇしっ…なにより一人じゃ買いにくいだろーが! 俺はお前と行きたいんだよぉ!」
「あぁ…ごめん。わかったよ、一緒に行こう」
再び熱くなりだしそうなところをなだめつつ蒼矢が了承すると、烈は片腕をあげてガッツポーズを決めた。
「よっし、決まり! 安心しろ、お前の好きそうな古本とか専門書出してるやつもいるみたいだから。退屈しねぇと思うぜ」
「ふぅん…そうなんだ」
一つ頷き、視線を用紙から烈へと戻すと、彼は頬を紅潮させながらにっかりと笑っていた。
その表情を見、つられるように蒼矢はくすりと笑った。
「? なんだよ」
「…お前は本当にお手頃な奴だなと思ってさ」
「…? どういう意味?」
「いや、なんでも。で、いつ行くんだ?」
「! そうそう、今度の土曜11時! 絶対だからな、キャンセル禁止!」
「…了解」
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