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サルファーは握った対の細剣を勢いよく振るうと、無数にうごめく敵の群れに突っ込んでいく。
手から離れた巨大弓はいつの間にか彼の頭上に浮き、横向きに座す。そして意思を持つように弦が引かれ360度に光弾を生みだすと、彼を中心にマシンガンのように高速射出し始めた。
サルファーは光弾に貫かれる異形たちを横目に、撃ちもらした者を走りながら細剣でさばいていく。
そんな彼を、[異形]たちは先ほどのように高く跳躍し、真上から狙う。
「うぜー。 …!」
ちらりと上へ視線をやると、襲いかけていた者たちの体が空中で何かに阻まれ、次々と自身の勢いで潰れていった。
まるで透明なガラスに当たって爆ぜたような挙動に、サルファーは舌打ちした。
「余計なことすんじゃねぇよ、ロード。興が冷めるだろうが」
「…防御技持ってないくせに、調子に乗るんじゃない」
「お前馬鹿か? 俺の攻撃は防御も兼ねてんだよ。加えて俺は『俺たち』の中で一番攻撃力がある。つまり、俺が一番強い」
『ロード』と呼ばれた彼に鼻を鳴らしてみせた後、サルファーは我に返ったように周囲を見渡し、細剣で肩を軽くトントンと叩いた。
「…とはいえ、面倒臭くなってきたなー。エピドート、雷頼むわ」
「……」
真顔で閉口するロードの隣から『エピドート』と呼ばれたもう一人が歩みだし、手に持つ柄の長い斧を振り上げる。すると、彼の動作に呼応するように上空から空間一帯に稲妻がはしり始めた。
雨のように降り注ぐ無数の雷撃に、[異形]はばたばたと地に落ちていく。
「いいーね、派手で」
エピドートへ向けてにやっと口角をあげると、サルファーは雷の雨の中を再び縦横無尽に走り回っていった。
こうして数えきれないほどの群れを成していた[異形]たちは、それを上回る手数を駆る『彼ら』の際限無い攻撃に、それほどかからずに全滅してしまった。
辺り一面に広がる茶色い残骸を見渡しながら、その中心に立つ『3人』は手にしていた得物を空中へかき消した。
「――ひとまず終わりでいい?」
「…[侵略者]が出てこなかったけどな。…仕方ない」
「早く帰ろーぜ、長居してると身体にこいつらの臭い染みついちまいそー」
「そうだね。…お疲れ」
片側の勢力を失った『転異空間』がその役目を終え、『現実世界』へ溶けて消えていく。
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