28人が本棚に入れています
本棚に追加
第8話_邪を見通す眼
しばらく交戦を続ける灯と影斗は息を切らしながら[異形]の群れの外側に降り立つ。
「こいつ、不死身か…?」
幾度となく当たる中で、目標である頭部をはじめ、急所とみられる部位を何度も切断し、破砕してきた。しかし[侵略者]は攻撃された箇所をいくらでも再生させ、一時的に動きが止まるもののすぐに吹き返し、何事もなかったかのようにセイバーたちへ飛びかかっていく。
逆に、[侵略者]の残像に匹敵するほどの身体速度に、ロードナイトとオニキスは全てを対処はできず、鋭い爪や牙によるダメージが少しずつ蓄積していた。足止め役の葉月も長時間の能力行使を強いられ続けていて、3人が一様に疲労を顔に表出しつつあった。
「おい、エピドート! 昨日こいつの[片割れ]やった時どうだったんだよ、急所あっただろ!!」
「ごめん、昨日のはおそらく生命力が枯渇していて…雷撃一発で自ら崩れていったんだ。…急所を探る機会は無かった」
「このままじゃジリ貧だ…消耗戦になる。『サルファー』がいる時に再戦という選択肢も――」
「ふざけんな、この量を『放逐』させる気か!? 冒頭でも無理があるぞ!!」
蒼矢は、紛糾する3人の脳内会話を黙って聞いていた。
相変わらず、突っ立ったままの足は微かに震え、踏み出すこともままならない。
心が恐怖に支配され、血の気は引いたままで、少しでも重心を変えれば倒れてしまいそうになる。
「……!」
しかし、戦場に注がれるアズライトの眼の中だけには、"恐怖"の感情は見当たらなかった。
まっすぐに見つめる大きな二つの瞳は、新たに噴き出した感情に彩られていく。
彼の心境の変化に呼応するように、胸の前で抱えていた『水面』が再び青白い光を放ち出す。
アズライトは装具に目を落とし、手に持つとゆっくり前方へ掲げてみる。
『水面』の透き通った刀身が、向こう側に見える景色を薄青に染めていた。
最初のコメントを投稿しよう!