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葉月が先んじて動く。装具を構え、[侵略者]へ真正面から突撃していき、それに反応した[侵略者]は迎え撃つようにエピドートへ照準を合わせていく。
「願ってもねぇ…まずはてめぇからだ!!」
[侵略者]の振り被った爪と斧槍が激突し、目と鼻の先に迫る鋭い牙がエピドートの顔面を襲う。
エピドートはそれが咬合する寸前で回避し、土色の胴体を足蹴にして距離を取る。
「……っ…、舐めた真似を…!!」
[侵略者]の激昂に呼応するように、周囲にうごめく無数の[異形]たちが地を揺らすような雄たけびをあげ、散々に暴れ始める。
雷撃で抑えられなくなった[異形]の群れが、灯の造った防御壁へ押し寄せて重なるように貼り付き、後続の圧に潰れていく。
「……っ!!」
高熱に焼かれて煙をあげながらも口を割き、鮫のような歯列を向ける人ならざるものたちを前に、壁に護られている蒼矢の目が恐怖で震える。
エピドートは、身体が離れた一瞬の隙に『雷嵐』を振りあげた。
一筋の雷撃が[侵略者]の脳天に落ちる。
「――!」
一瞬[侵略者]の動きは止まったが、すぐに意識を取り戻してエピドートの方へ目を向ける。
が、彼の姿は無い。
「ちぃっ…ちょこまかと…、…」
悪態をつき、首を左右へ振って確認しようとするが、その動作へ動くことはなく、言いかけた言葉がそれきり続かなくなる。
首元からは槍の先端が、喉から突き出るようにその眼下に伸びていた。四肢は気付く間もなく左右から切り落とされ、機動性と思考する力を失った胴体が[異形]の海に消えていく。
「…ア゛…ァァ…」
背後から貫かれ、首から上だけになった[侵略者]は、『雷嵐』の先端でどろどろと溶けて降下していった。
同じように[異形]たちも一様に動かなくなり、混ざり合いながら崩れ、地に吸われるように無くなっていった。
『転異空間』のすべての[脅威]が消え去った。
「……」
防御壁が解除され、極度の緊張と恐怖に晒されていたアズライトは、その糸が切れたのかその場に座りこんでしまった。
装具を収め、3人が彼のもとへ集まる。
「大丈夫だな? アズライト」
「…は…い…」
冷や汗を流し、返答するのに精一杯といった感じのアズライトへ、ロードナイトが手を差し伸べる。
「ありがとう、助かった。君がいなかったら…いや、どうなっていたか想像したくないな」
支えられながら立ちあがる彼に、ロードナイトは口元に笑みを浮かべてみせた。
「正直…『君』のことはよくわからないところが多いが、とりあえず『特殊な能力』を持つセイバーだということはわかった。かなりの戦力強化になる…今後に期待するよ」
何も言い返せず、彼を見上げたまま固まるアズライトの肩に、後ろから優しく手が乗せられた。
振り返ると柔らかな笑顔に戻ったエピドートがいて、その後方から影斗も、遠目から見守るように自分を見やっていた。
「――お疲れ様、戻ろう。『セイバー』の役目は、今日はこれで終わりだよ」
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