第9話_もつれた二つの糸

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話の区切りが見えたところで、後方から眺めていた影斗(エイト)蒼矢(ソウヤ)へ声をかける。 「…蒼矢、お前具合大丈夫なんか?」 「! そういえば…ごめん、長話になってしまって…」 「大丈夫です。あちらの…『転異空間』に入ってから少しずつ良くなっていって、今はもうなんともありません」 慌てて葉月(ハヅキ)が顔をあげると、蒼矢は影斗へも視線で応えながら首を横に振った。 少し笑顔を見せる蒼矢だったが、葉月は眉をひそめ、怪訝そうに彼を見やった。 「君の能力が『現実世界(ここ)』でも使えるらしいことは、『転異空間』へ転送する前の様子でわかった。[異界のもの]の気配を感じ取れるようだけど、多分…同時にそれにあてられて、身体が不調になっていたのかもしれない」 「……!」 「! そうなのか。それは、すごく有用だが…厄介でもあるな」 「…実は昨日、今回の[侵略者]の"[片割れ]"に、彼は接触していて…それで、より過敏に反応してしまったのかも…いや、そうであって欲しい」 「すべて推測だ。『現実世界』でセイバーの能力が使えること自体、結構眉唾物だしな…しばらく様子を見るしかないだろう」 彼らの話に一転して不安げな面持ちになる蒼矢へ、(アカリ)は手を差し出した。 「…なににしろ今後とも宜しく、蒼矢。当分不慣れだろうが、必ずバックアップする。一緒に『アズライト』を解っていこうな」 「ずるいな、灯。僕も蒼矢って呼ばせてもらうよ。セイバーは共同体みたいなものだから…不安かもしれないけど、心細く感じることはないよ。いつでも頼ってね」 「…はい。宜しくお願いします」 蒼矢は表情を幾分か強張らせながらも、彼らと握手を交わした。 年長者の包まれるような大きく厚みのある手のひらに、曇りの残る心情が少しだけ安堵した。 話が終わると、一行は流れ解散になった。 灯が去り、葉月が蒼矢へ付き添うように歩み寄る中、影斗はきびすを返して逆方向へ歩いていこうとする。 「…先輩!」 蒼矢が呼びかけると、視線だけちらりと彼へ向けてから、何も言わないままに歩き去っていった。 戸惑うような表情でその背中を見つめ続ける蒼矢へ、葉月は小さく声をかける。 「蒼矢、僕らも戻ろう。君も疲れただろうし――」 「俺…、影斗先輩の気に障ることをしてしまった…というか、そうなってしまったような…」 か細くつぶやきながらうつむく蒼矢を見、はっとした葉月は少し言いよどみかけたが、ひとつ息をつくと蒼矢の顔をのぞき込んだ。 「…それは違う。確かに、今日の彼は君の知ってるいつもの様子じゃなかったかもしれない。でも、それは君のせいじゃない。…転送前から『転異空間(あっち)』でも、戻ってきてからも、彼は君のことだけはずっと気にかけていた」 「……」 「彼の様子がいつもと違うのは、僕の前でだから…僕のせいで、ああなってしまっていただけだよ」 「…? どういうことですか…」 その言い草に蒼矢は怪訝な視線を向けるが、見上げた葉月と目が合うことはなく、悲しそうな顔で地面を見やっていた。 その表情に、蒼矢は問いかけていた言葉を飲み込んだ。 「…ごめんね、いつか話せるといいんだけど…今は、彼のためにも」 「…すみません」 「謝らなくていいよ。…行こうか」 葉月は元の穏やかな表情に戻し、蒼矢の背に手を置いて駐車場をあとにした。
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