28人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日の昼休み、蒼矢は終鈴が鳴ると同時に教室を駆けだして温室へ向かう。
半端に開いている戸を引くと、奥のテーブルで影斗が座って待っていた。
「よー。…そんな慌てて来なくても逃げねぇよ」
息を切らして立ち尽くす蒼矢へ、影斗は至って落ち着いた様子で笑ってみせた。
「それだけ走れりゃ、体調はもう良いみたいだな」
「…はい。ご心配をおかけしました」
軽く会釈しながら蒼矢がテーブルに着くと、影斗から話を切り出した。
「『起動装置』は?」
「?」
「ペンダントだよ。昨日持ってたやつ」
「! あ、はい…ここに」
蒼矢は制服のポケットから、アズライト鉱石のはまったペンダントを取り出し、影斗へ差し出した。
「…あぶなっかしいなぁ」
影斗はそれを手に取ると、彼の首にかけ、襟元を少し引っ張ってワイシャツの中に落としてやった。
「でも先輩、アクセサリーは…」
「お前は首開いてねぇんだから見えやしねぇよ。着替えん時だけ注意しな」
「…はい」
「そいつは『セイバー』になる『起動装置』だ。鉱石が光ってる時に握ると変身できる」
「そういう仕組みなんですね…」
「逆を言えば、それが無けりゃただの人だ。…まぁ、常にそうやってぶら下げといた方が…いいかもな」
「わかりました…、! 先輩、あの…」
「ん?」
「あと…、昨日からここに痣みたいな模様が出来て…消えなくて」
そう言いながら、蒼矢は左胸あたりを押さえてみせる。
その仕草を見、影斗は軽く頷いた。
「そりゃ『刻印』だ。覚醒してから役目終わるまで消えねぇよ。俺も腰んとこにある」
「…そう、ですか…」
特に驚きもしない彼の表情に、大方そんな反応が返ってくると予想がついていたのか、蒼矢は肩を落としながら小さくつぶやいた。
「体の正面は結構面倒だな。心配なら隠せるようなインナー着るようにした方がいいかもな」
「はい…そうします」
憂いを込めながらも、こちらの言うことにひとつひとつ素直に頷く蒼矢の仕草を確認すると、影斗はため息をつきながら頬杖をついた。
「――まさか、お前が仲間になるとはなぁ…」
「…すみません」
「いや、謝って欲しいわけじゃなくってさぁ…、むしろ俺が悪かったな…昨日は」
その言い草を受けてじっと見返す蒼矢の視線に、きまりが悪くなったのか影斗はテーブルへとそらす。
「ちょっと…あってさ、楠瀬と。…悪ぃ、お前の耳に入れても気分いいもんじゃねぇから、勘弁してくれ」
「いえ、先生にも話せないと言われましたので、聞くつもりはないんです。ただ…」
影斗が顔をあげて目線を戻すと、蒼矢は少し頬を染めながら彼を見つめていた。
「…俺にとっては、影斗先輩も、先生も…大切な人なので」
「……」
眼鏡の奥から注がれるその真摯な瞳に、何も返せないまま影斗は再び目を落とし、黙って頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!