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『転異空間』がなくなったあとの『現実世界』に、先ほどの『3人』が戻ってきていた。
『転異空間』で『サルファー』と呼ばれていた男――咲原 晃司は戻ってきた地点である神社の参道脇にあった置石に腰を落とすと、広げた片足に頬杖をつく。
「…まーた来なかったな、あの黒助」
「ああ。…連絡は…、無いよな」
晃司のつぶやきを受け、『ロード』と呼ばれていた咲原 灯がもう一人の方へ振り向く。その先に立っていた『エピドート』――楠瀬 葉月は、黙ったまま頷いた。
「あいつどうやってサボってんの? この辺いるだろ?」
「…『起動装置』外してるんじゃないかと思う。だいぶ前たまたま会った時に、首から下がってなかった気がする」
「まじかよぉ!? それアリ!?」
灯の推測に、晃司は目を見開きながら声を荒げた。が、すぐに表情を素に戻すと足許へ視線を投げた。
「あいつならアリか。…不良小僧が」
「…よくやるよな。よほど来たくないんだろうが、そもそも使命感が薄いのかもな」
「毎度ふざけた真似しやがるなー…今度会ったら最低一発は殴る」
「…ごめん。僕が動ければ…こんなことには」
ふたりのやり取りを黙って聞いていた葉月が、ぽつりともらす。
「! いや、お前を責めてる訳じゃないよ。元々お前だけに頼りきりだった俺たちにも落ち度はある」
「そうだよ。しかも、それ言ったら圧倒的にあいつが悪いだけだからな。くっそー、俺だって就活しながらやってんだぞ…!」
「それはお前が勝手に浪人したからだろ」
「うるせー!! お前とは出来が違うんだよ、悪かったな!」
涼しい顔で水を差す灯へ向けてがなった後、晃司は葉月へ視線をやった。
「どうにしろ、あいつ無しでどうにかなってるからいい。…気にすんな、ただの愚痴だ」
「…そうだな。俺たち3人とも『後発』まで発現してるし、頭数足りなくても現状大きな隙は無いし…あいつの持つ『カード』が使えないのは少し痛いが、倒せれば問題無い」
「…足りねぇと言やぁさぁ、」
灯の言に、晃司が顔をあげる。
「もう一人いるんだったよな、『俺たち』」
「…ああ」
灯と葉月もそれぞれに反応を返し、3人がお互いを見回した。
「…"水のアズライト"か。長らく空席の『5人目』」
「情報少な過ぎな。『回想』にもほとんど引っかかってこねぇんだろ?」
「うん…全部を洗ったわけじゃないけど、他4人に比べて圧倒的に記録が無い。主に引き出せる過去データが[異界のもの]ってこともあるから、『僕ら側』については元々情報が薄いんだけど…判ってるのは使う属性くらいで、あとは…攻撃型なのか防御型なのかもはっきりしないんだ」
やはりすまなそうに話す葉月を気遣いながら、灯が再び推測を述べる。
「何か特殊な能力を持ってるのかもな。それで適合者がほとんど出てこない」
「おいおい、期待しちまうじゃねぇかよ。俺らの代で出てこねぇかなってさ」
「そうだね。…5人揃って初めて『セイバーズ』なんだからね」
葉月の柔らかい面差しと言葉に、晃司がにやっと笑ってみせた。
「まーな。…来たらラッキーくらいに思っとくわ。現状でも4人いるはずのとこ3人でやりくりしてるんだからな、高望みはしねぇよ」
そして晃司が腰をあげ、解散の流れになる。
神社敷地内の自宅へ戻りかける葉月に、灯が声を掛けた。
「葉月、気をつけてろよ。次の出現場所も"神社"だ、少しでも異変感じたらすぐ連絡しろ」
「わかった、ありがとう」
「あー、葉月悪い風呂貸してくれ。今すぐ入りてぇ。なんか体が汚くなってる気がする…おえぇ」
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