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第11話_静と動の邂逅
そして土曜日を迎え、烈と蒼矢は連れ立って件のショッピングモールへ向かう。
小規模ではあるものの10時開店の週末の敷地内はすでに人で溢れかえり、丸くひらけた中広場のフリーマーケット会場にも売り主らの色とりどりのパラソルやレジャーシートが敷き詰められ、道行く人が次々に広場へ吸い込まれていっていた。
蒼矢でも口を半開いたままに、少し高揚した面持ちになっていたが、烈のテンションの上がり様はひとしおで、目を輝かせながら広場を食い入るように見つめていた。
「…すげー! めっちゃ色んな物ある!! どうする、どっから見る!?」
「待てって。端から順にいって、良さそうなのがあったら止まって見てみればいいだろ」
蒼矢は、興奮を抑えきれずに広場内へ走っていきそうになる烈のリュックを掴んで落ち着かせると、ふたり揃ってフリマ会場へと足を踏み入れていく。
「あっこれ、前中古屋で見てから欲しかったやつ…! すごい、あん時よりだいぶ安いぞ! …あぁっ、これも前から狙ってたやつだ…、ああぁっ、これも…!!」
「そんなに手に取って、予算大丈夫なのか? まだ見始めたばかりだけど」
「心配すんな、あとでちゃんと厳選するぞ! 母ちゃんからひとつ千円以内・計3つまでとお達しが出てるんだ!!」
「…おばさん、賢明だな」
ふたりはしばらくの間、蒼矢が烈のウィンドウショッピングに付き合う形で行動する。
元々烈の要求に応える体で来ていたため、興味惹かれるものはあったものの、蒼矢はそれほど注視せず流し見して歩いていた。
が、とある売り場スペースに差しかかると、蒼矢の足が初めてぴたりと止まった。
「! どした? …おー!」
立ち止まる蒼矢に気付いて振り返った烈も、その光景に歓声をあげる。
その売り場には隅に置かれたレコードプレイヤーからの音楽が流れ、ブルーシートの上にその青地を埋め尽くす大量のアナログ盤がざらっと並べられていた。
年代物であろうレコードの数々は、普通のレコード店にあってもおかしくないくらいにどれも装丁状態が良く、シートがあるとはいえこのような地べたに雑多に並べるには勿体無い代物ばかりだった。
「すげぇ…! こんな数のレコード見たことねぇぞ…!?」
立ち尽くしたままの蒼矢の横でしゃがみ込むと、烈は一つ一つ無作為に手をのばし始め、ふと何かに気付いたように一枚を手に取ると蒼矢へ差し出した。
「ほらこれ、お前CDでよく聴いてなかったっけ?」
手渡されたクラシック盤を眺め、蒼矢は緩慢な動作で頷いた。
「…俺もそれだけはタイトル覚えてる。お前それ聴きながら受験勉強頑張ってたもんな」
呆けたような表情の中でほんのりと頬を染める彼を見、烈は柔らかく笑った。
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