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「――よぅ。お前らこんなのに興味あんのか?」
すると、ふいに売り場奥からぬぅっと人が現れ、レコードプレイヤーの隣に並べられた折りたたみ椅子に腰かけた。
売り主らしきその男に気付き、視線をあげた蒼矢は一瞬ぎょっと目を見開いた。
アロハシャツにチェック柄のハーフパンツにラウンド型のサングラスに金髪という風体の男は、アンティークな雰囲気の漂う売り場の景色にはそぐわず、このレコードエリアとはまた別の意味で会場の空気から浮いていた。
蒼矢は思わず口をつぐんでしまったが、烈は全く気にせずに男へ人懐っこく話しかけていく。
「あんちゃん、ここの売り場の人?」
「おう、売り始めてから人っこひとり止まってくれねぇから寝落ちしそうになってたわ。やっと見てくれる渋好みが現れたと思ったら、ガキんちょだったもんで驚いてる。こんな数のアナログ盤見たことねぇだろ?」
「うん、無い。何書いてあるかもわかんねぇし」
「あー…洋曲にクラシックしかねぇからな。いやでもちったぁ読めんだろ? 授業でやってんだろ?」
「英語めちゃくちゃ苦手なんだよねー。毎度赤点ギリギリ」
「おいおい、俺かよ。お前の将来不安だわ」
「でしょ? テスト前はこいつにいっつも助けてもらってんの。英語得意なんだ」
意外と和やかに会話が盛り上がる中、サングラス男は隣の蒼矢へ目を移す。
「あぁ…確かにそっちの方が出来良さげだな。どう? 洋楽もこいつより話できそうに見えるけど」
「! あ、あの…」
烈が見上げる中話を振られた蒼矢は、彼らの視線を浴びて少し動揺し、手に持っていたクラシック盤にはたと気づいてあわてて売り場に戻しかける。
「すみません、勝手に…、あ」
しかし男は手を伸ばしてそれを受け取ると、ケースを傾けてレコードを滑り出させた。
「かけてやるよ、聴きたいんだろ?」
男は蒼矢へ向けてニッと口角を上げ、慣れた手つきでレコードを傍らのプレイヤーに乗せる。針が溝に合わさり、ゆっくり回転し始めると、ふたりの聴き馴染みのあるピアノ曲が流れだす。
「…あぁ、これ! んー、なんかちょっと懐かしさが増すなぁ」
「どうだよ、CDの音源と全然雰囲気違うだろ? LPならではの聞き応えってか、味が出るんだよ」
「…はい、聴いてて心地が良いです」
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