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「おい、蒼矢…!?」
「っ…大丈夫…、ちょっと…立ちくらみが…」
案じるように声をかけてくる烈へ、途切れとぎれに返答するが、簡単には立ちあがれそうにない。
…どうしよう、このままじゃ烈が危険だ…
…先生と影斗先輩に…連絡…、しなきゃ……
「――おい」
と、しゃがむふたりを囲うように、サングラス男が後ろから声をかけてきた。
男は先ほど見せた余裕のある表情からがらりと変わり、振り返った烈を真顔で見据えていた。
「お前は動けそうだな?」
「! あぁ、うん…」
「駐車場の手前にこのフリマの管理本部がある。そこ行きゃ簡単な救護所が置かれてたはずだ。この状況で、今機能してるかわからねぇが…お前、先行って話通して来い」
「えぇ…!?」
やにわに投げられた男からの指示に、烈は戸惑うように眉根を寄せた。
「っでも…俺、蒼矢を置いては…」
「心配すんな、悪いようにはしねぇよ。本部行って誰もいなかったらさっさと家に帰れ。あとでこいつから必ずお前に連絡させるようにするから」
「…、わかった」
「走ってけ。くれぐれも戻ってくんなよ」
「了解! …蒼矢のこと頼むな!!」
「おう、任せとけ」
男に説得された烈は意を決し、手を振りながら混乱し始める人波をするすると抜け、あっという間に消えていく。
「…ったく、前見て走れっての」
烈を見送ると、サングラス男はため息をひとつつき、蒼矢のすぐ隣に腰を落とす。
「急に具合悪くなったみたいだな?」
青ざめたまま、蒼矢はゆっくりと男へ顔を向ける。サングラスを少しずらした男は鋭く射貫くような視線を投げて腕を伸ばすと、胸元を掴む蒼矢の手を上から覆った。
「――こいつの仕業か?」
「……!!」
突然の男の言に、うつろ気だった蒼矢の両眼が瞬時に見開かれる。咄嗟に逃れようとしたが、もう片方の腕で身体を押さえられた。
瞬きもできずに凝視してくる蒼矢を見、男は目元を少し緩めた。
「悪ぃ悪ぃ…まぁそう警戒すんなって、だいたい把握したから。ちょっと俺の中で倍驚いちまっただけだ」
そう言われてもいまだ動揺したままの彼へ向けて、男はおもむろに自分の胸元を探る。アロハシャツの襟から指に絡まりながら出てきた銀色の鎖の先には、黄色に光り輝く鉱石がぶら下がっていた。
見開かれた蒼矢の視線が彼の鉱石へ移り、またすぐに男へと戻っていく。
男はサングラスを外し、にやりと笑いかけた。
「…これでもう安心だろ? ――俺はお前の仲間だ」
男はハーフパンツから携帯を引き抜き、蒼矢を支えながらどこぞに連絡を取り始めた。
「おう。出たからK町のショッピングモールに今すぐ来い。葉月にも連絡しとけ。あ? …まじかよ。…わーった」
手短に話を終え、男は蒼矢を再びのぞき込んだ。
「動けるか?」
「はい…なんとか」
「よし。ひとまず人の通らねぇ場所行って、待機だ。すぐもう一人合流する」
蒼矢は頷き返し、ふたりで場所を移動していく。ほぼ抱えられるように歩く中、蒼矢はサングラスを外した男の顔をじっと見上げていた。
…この人の顔って……
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