第13話_誘う嬌艶の香

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索敵中であった蒼矢(アズライト)は、頭に降りかかった(ロードナイト)の声にびくりと肩を上げる。 瞬間、眼前に数本の鎖が真っ直ぐに迫り、銛のようになったその先端がたて続けに壁に刺さった。 穿たれた[侵略者]の刃は、壁の高熱で紅白く染まりながら、徐々に内側へ侵入していく。 すぐに索敵姿勢を解くが、銛が壁の中を侵食する速度は予想よりはるかに迅く、いち早く壁を抜けたひとつがアズライトへ向けて照準を合わせ襲いかかる。 「っ!」 間一髪で銛を避けるが、銛は意思を持つかのように向きを変え、鎖が輪を描いて手首に巻きつき、彼を後方へ振り飛ばした。 『水面(ミナモ)』は手から外れてかき消え、地に落とされた無防備な身体に二本目の銛が迫る。 「!! ああぁっ!!」 背中から左脇腹に大きく斬りつけられたような感覚が走り、アズライトは身体を反らせながら悲鳴をあげる。 更に三本目が襲うが、彼の身体を貫こうとする寸前ピンポイントで造られた壁に阻まれ、高熱に焼かれながら突き刺さった。 遠隔で能力を行使したロードナイトだったが、直後に[鉛鎖]の鋼化させた脚蹴を受け、鋼鉄の地にめり込む勢いで落とされる。 「ぐっ…!!」 「この俺との対峙中に余所へ気を回すとは、舐められたものだ。…判断を見誤ったな」 受け身を取れずに墜落した衝撃で動けないロードナイトを、[鉛鎖]は能面のような顔貌で空中から見下ろした。 「ロードてめぇっ…何してんだよ!!」 セイバーふたりの異変に晃司(サルファー)が吼えるが、彼は彼でいまだ手数の多い[異形]への対応に追われ、彼らの元へ駆けつける余裕は無い。 膝をつき、頭を垂れて沈黙するロードナイトを横目にし、サルファーは歯噛みした。 「くっそ…! おい新人、装具をもう一度呼び出せ!! "属性技"を使え!!」 「……っ…!?」 脳内にサルファーの怒号が届く。 倒れたままのアズライトは、彼のその言葉の半分を理解できずにいたが、些細な疑問符は捨てて彼の言葉に従い、痛みをこらえつつ再び手のひらに力を込める。 しかし既に三本目の銛は防御壁を突き破り、装具を呼び出す時間を与えぬまま、鎖がうつ伏せに転がるアズライトへ絡んでいき、持ちあげて宙吊りにした。
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