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第1話_シークレット・ヒーロー
某月某日。
地球である『現実世界』と次元を異にする『転異空間』と呼ばれる場所に、3人の人間が降り立っていた。
周囲には、おびただしい数の人――否、[人の形を模した何か]が彼らを円状に取り囲み、おぼつかない足取りでじわじわとその距離を詰めていた。
見てくれは頭部があり、四肢もあるようだが着衣は無く、全身を茶褐色の粘性のある組織で覆われ、動くたびに前肢の先から糸を引きながら地に滴らせ、後肢のたどった跡を残す。高熱を持つのか体中から漏れ出す蒸気は、空気と混ざって腐臭を放っていた。
「臭ーー!! 鼻曲がっちまう、スーツに臭いバリアは付いてねぇのかよ!!」
「…これでも抑えられてる方だったりして」
「げろげろまじかよ。あー頭痛くなってきた」
「おい、よそ見してるなちゃんとやれ。先手取られるぞ」
そう3人が言葉を交わす最中、距離を詰めきった[異形]の群れが、体長の数倍はあるかという高さにまで跳躍し、一挙に彼らへ向け襲い掛かってくる。
鼻先をつまみながら"臭い"アピールしていたひとりが、その突如とした挙動に目をぱちくりとさせると、次いでにやりと笑う。
「あらら後手後手? …上等じゃん」
そう言うと同時に、彼ら3人へ向かっていた群れの最前から後ろ数列まで、頭部が後方へ飛び散った。思考器官を失った身体は後列に落ち、重みと墜落した衝撃で隊列が押し潰されていく。
ひるんだ[異形]達の眼前に、不敵な笑みを浮かべる標的と、その手に握られた金色に輝く巨大な弓が映し出されていた。
「触れるもんなら触ってみろよ。…お前ら、『俺』のカモだぜ」
挑発じみた台詞を吐きながら、彼は巨大弓を引き絞る。矢のつがえられていないそれは、数多の光を放射状に放ち、指が弦から離れると一斉に射出されていく。光弾は体勢を立て直しきれていない敵へ向けて万遍なく浴びせかけられ、ぐちゃぐちゃと組織を飛散させながら崩れていく。
その様子を見、弓を降ろすと彼は悦な表情を浮かべた。
「…快感」
「油断するな、サルファー。守ってやらないぞ」
「お前の助けなんざいらねぇよ。『壁』は黙って見てろ!!」
『サルファー』と呼ばれた光の弓使いは、そう吠え弓を手放すと、両手に別の武器を呼び出す。
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