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――ピアスを開けると運命が変わる。
「――って本当なのかなぁ」
携帯の画面をにらんでつぶやいた。
大きな窓。観葉植物。明るい店内。
大通りから離れた住宅街の片隅。ここはいわゆる隠れ家カフェ。
店の名前はsugar plum 。チャイコフスキーの『くるみ割り人形』の金平糖の精sugar plum fairyが由来だという。
テーブルに頬杖をついてぷっくり頬を膨らませた。のびたショートボブは一つに束ね兎の尻尾のよう。その横顔にはまだ幼さが残るが年齢は十七。
都内の私立校に通う女子高生――名前は中井葵。
ここには半年前に偶然立ち寄ったのをきっかけに今では悩み事を相談する場所になっている。
オーナーは杉本貴子。
背中の中ほどまでもある明るい色に染めた髪。シンプルな白シャツにデニム。飾り気のないモスグリーンのエプロン。耳には大振りなピアスがきらりと揺れる。自称二十歳の四十代。詳細については秘密だという。
(聞き出そうとしても話をはぐらかされるし)
人懐っこい性格らしく初対面の客にも気さくに声を掛けてくれる。
葵にとってなんでも話せるお姉さん的な存在だ。
「なに、なに? ひょっとして悩み事?」
タオルで手をぬぐいながらカウンター越しに体をひねる。
その顔にはでっかく「興味津々」と書かれているのが見えるよう。
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