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「こんな場所で転んだら格好悪いぞ。ヘラヘラしながら歩いてるから危なっかしいと思ってたんだよ」
ため息混じりの説教などカケラも耳に入らない。
(跳ね上がった心臓の音が……!)
ついに、最後の一つ。願いは。
(ちゃんと普通の会話をする!)
そう決意して最後の一つを食べようとしたが、その決意は持ち越しとなった。なぜなら今日は電車が遅れている。
次の電車に乗れないと遅刻してしまう。ホームに滑り込んできた電車に慌てて飛び乗った。車内はいつもよりすし詰め状態。
(身動きするのもツライ)
葵の隣には年齢が同じぐらいの女の子。お嬢様学校で有名な女子校の制服。緩く波打つふわふわの髪。よく似合っていてうらやましい。
(いいなぁ、あんな可愛い顔に生まれたかった)
その顔は俯いて、震える肩はなにかを堪えているように見えた。
視線を落とすと女の子の腰のあたりを撫でる手。わざと邪魔をするように体を捩って手の主と思われる人物をにらみつけてやる。
(こんな時にサイテー!!)
どうやら効果があったらしく、そっと手がひっこんだ。
それまで俯いていたその子と目が合った。照れくさいが視線を逸らすのはおかしいので笑って誤魔化すことにする。
「あの……ありがとう」
駅のホームで呼び止められてお礼を言われたのだが大したことはしていない。なんだか変な気分になる。
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