22人が本棚に入れています
本棚に追加
並んで改札まで言葉を交わす。聞けば、今回のようなことは初めてではないという。
「我慢してれば……いいかなって」
「それはおかしいよ」
「だって、声を出すのも恥ずかしいし」
(ああ、分かる。私だったらそうした)
歩くポケットの中で金平糖がカランと音を立てた。
少し迷ったが、缶をその子の手に握らせる。
「これは私の知り合いからもらった『なりたい自分に変身できる金平糖』なの。クジ運がない私でもくじ引きで一等を当てたり、気になる人と話ができたりしたから、きっと本物よ。残りは一つだけなんだけど……だまされたと思って試してみて」
「でも……」
「信じる者は救われる、大丈夫よ」
ぐっと親指を立てて手のひらを握り込んだ。ここは貴子さん直伝の笑顔。
「葵、のんびり歩いてると遅刻するぞ」
呼びかけられた声に心臓が跳ね上がった。
(え? 名前……!?)
早くと促されて頷いて、女の子に手を振って改札へと急いだ。
途中、人ごみにもみくちゃにされそうになって、手を引かれて…。
(まるで、彼氏ができたみたい!)
最初のコメントを投稿しよう!