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「その……好きな人が……いてというか、私が勝手に好きだと思ってるだけなんですけど……」
だんだん声が小さくなる。耳まで発熱しているように熱い。鏡で見るまでもないきっと真っ赤に染まっていることだろう。
(そう、この性格を直したいのだ)
「その人を駅で見かけるんです。同じ学校でたぶん学年は一つ上……」
「へぇ。真っ赤になっちゃってウブだねぇ。ふうん。葵ちゃんの初恋、ってわけね」
「……いけませんか?」
「いや、健全で結構。でもね、それでピアスを開けて運命を変えようってのはちょっとおかしいと思うよ」
「――ですよね」
つぶやいてしょんぼりと肩をすぼませた。
「でもね、葵ちゃんが変わろうとする気持ちは大事だと思うのね」
カウンターの縁に両手を添わせて体重を乗せ、思わせぶりな表情でこちらを窺っている。
「ここは一つ。貴子おねーさんが特別なものを授けてあげましょう」
ちょっと待ってね、と鼻歌混じりにつぶやいてカウンターの奥を探る。すぐさま目当てのものを探し出したようで、きらっきらの笑顔で振り返った。
そっとテーブルに置いたのは――手のひらに収まってしまいそうなほど小さな丸い缶。蓋には雪の結晶のような模様が描かれた丸いシール。
小さな宝石箱のようなそれに目を丸くして貴子さんを見上げた。
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