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狭い店内は二人だけ。まるで内緒話をするように額を突き合わせて声を落とす。
「これはあたしと葵ちゃんだけの秘密。これは食べるだけで『なりたい自分に変身できる金平糖』よ」
なんと安直なネーミング。いかにも子供だましで胡散臭い。
「えー、嘘だー」
「だと思うでしょ。私も買ったときはそう思ったわよ。でもね、これは本物よ。効果は私が保証するわ」
声を潜めたまま、神妙な顔でささやいた。
(……本物、なの?)
葵の疑いの眼差しに、貴子さんは口の端を引き上げて力強く頷いた。
「実はね、使ったことがあるの」
明るくて気さくな貴子さんがそんな胡散臭そうなものに頼るとは思えず、目を見張った。
「私がこの店を始めた当初ってお客さんが全然来なくって、連日閑古鳥。経費ばっかりが膨らんで……ああ、私には向いてないんだなぁって。もうやめちゃおうって思ったときにたまたまネット通販で見つけたの」
あなたの願い事を叶える金平糖。
願い事を思い浮かべて齧れば……あら不思議。
たちまちその願いが叶います。――正直言って胡散臭い。
「これでだめなら諦めようって思って金平糖を一粒食べたのよ。……そしたらものすごい雨が降って来て」
(……あのゲリラ豪雨の日だ)
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