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※
笑顔で貴子さんに持たされた――缶に入った金平糖。
大切な注意事項がある。それは食べる量。
一日一粒。当然だが願い事も一つだけ。
制服のポケットに忍ばせた缶の中に金平糖は4つ。缶を揺すればころころと音がする。それを取り出して口の中に放り込んだ。
ふわりと口に広がる甘味。奥歯でかみ砕いて味わう。
(普通においしい)
混み合う朝のホームに、憧れの人の姿がある。
グレイのジャケットに葵と色違いのネクタイ。同じ学校の男子としゃべる姿はまるで子犬がじゃれ合うよう。日に焼けた顔。すらりと高い身長。
葵特製贔屓フィルター越しでなくても好印象。
(同じ電車、できれば近くに乗れますように!)
期待はしてない。だからダメだったときにがっかりしないようにハードルは低く設定する。
結果は――囁く声が聞こえるほど近くに。
(興奮し過ぎて、鼻息を聞かれてしまいそうですっ!)
翌日は二つ目を噛み砕いた。願い事は――。
(ほんの少し、大したことじゃなくていいから声を掛けてほしい!)
そう願ったが、今日は近くにも乗れなかった。
最寄りの駅に着いてがっくりと肩を落として改札へ――ない。
(定期、落とした!?)
電子決済を嫌う親の方針で定期を持ち歩いている。
しかも先月更新したばかり有効期限がたっぷり残っている。
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