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怒った母の顔を思い浮かべて血の気が引いた。
(探さ、なきゃ……!)
青ざめた顔で周囲を見回していると呼び止める声。振り返ると見慣れた定期入れが差し出された。
「もしかしてコレを探してたりする?」
(もう、神様がいるって信じる!)
見上げた顔に好感度ゲージが壊れそうなほど跳ね上がった。
上ずった声で何度もお礼を言って定期入れを受け取る。泣きそうな顔をしていたことを心配されてしまった――なんて優しい。
それをきっかけに彼の名前を聞き出すことに成功した。
(名前は――高村涼。クラスは三年C組)
もう慣れた仕草で三つ目をかみ砕いた。願い事は。
(彼と手を、つなぎたい)
ちょっと欲張ってぐんとハードルを上げた。
今日は手が届きそうなほど近い場所に乗れた。顔を覚えられてしまったらしく笑顔を向けてくれた。
(ああ、わがままを願った自分。今日はもうこれで満足です)
失った時が怖いから高望みはしない。
うれしさで地に足がついてなかった。足取り軽く改札を抜け駅を出ようとしたところだった。普段なら飛び越える段差につまづいた。
(ああ、バチが当たった……!)
転びそうになった腕を誰かに引き上げられた。
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