序章

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序章

 朝、目覚めると階下からかすかにいい匂いがする。国鉄官舎の狭い台所で、母が朝ご飯の用意をしていた。いつものように北側の窓から、薄明(はくめい)どきの朝霧に(かす)む「森」を眺めると、濃密にしげる樹々が朝陽に乱反射し、光の鍵盤からピアノソナタが奏でられているようだった。  母と向かい合って朝ご飯を食べながら、昨晩の最終回の放送において、ついに闘いに敗れたウルトラマンが、生まれ故郷のM78星雲に帰っていくシーンを思い出していた。まだ小学生だったオレがまるで喪神(そうしん)した人のように……  レースのカーテンの隙間からのぞく、朝陽に満たされた薄青い空からはすでに星たちの姿は見えるはずもなかったが、それでもオレは、M78星雲を追い求めるように見上げずにはいられなかった。  ──化学特捜隊のハヤタ隊員が、小型ビートルで青い球体と赤い球体を追跡中に、赤い球体と衝突したうえに墜落死をしてしまう。ウルトラマン(赤い球体の正体)は、宇宙の墓場へ護送中だった怪獣ベムラー(青い球体の正体)が逃亡したため、地球まで追ってやって来ていた。自分の不注意でハヤタ隊員を死なせてしまったウルトラマンは、罪の意識から自分の命を分け与え地球の平和を守るため戦うことを決意する。こうして、ウルトラマンとハヤタ隊員は一心同体となった。── 93cbf55d-4c67-4616-a4a4-d12dcc2ee9d8
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